生まれつき重度の自閉症があり、コミュニケーションに困難がある東田直樹さん。
13歳で執筆した著書「自閉症の僕が跳びはねる理由」(エスコアール・角川文庫・角川つばさ文庫)が世界中でベストセラーに。これまで多数の絵本やエッセイを出版し、自閉症の内面を、分かりやすく丁寧に表現しています。
前編は、「人に気持ちを伝えること」をテーマにお話をお聞きしました。
後編は「仕事」・「平和について」語られました。
東田直樹さん プロフィール
1992年8月生まれ。重度の自閉症。パソコンおよび文字盤ポインティングにより、コミュニケーションが可能。 著書「自閉症の僕が跳びはねる理由」は、後に国際的作家デイヴィット・ミッチェル氏に翻訳され、現在30か国以上で翻訳されている。執筆活動以外に、全国で講演活動を行う。

文字盤ポインティングからパソコンへ
1月下旬、東田さんの仕事場を訪ねて、取材を行いました。前半の1時間は、文字盤ポインティングで会話し、後半からはノートパソコンで文章を打ち込みながら会話を続けました。
後から覗かせてもらうと、「僕は…」とキーボードを打った瞬間に、削除。また「僕は…」と打ちかけて削除。何度も削除し、ようやく「僕は伝えることを…」まで打ったところで、また削除。
なぜ、文章を間違えているわけでないのに削除するのか。東田さんにもわからない、頭の中で起きる苦悩があるように感じました。
東田さんは、じっとしているのが苦手で動いてしまう特性があります。取材中は椅子から離れてしまった際に「今、私がした質問は聞こえているのだろうか」と思う場面もありましたが、東田さんの耳にはしっかり届いており、頭を抱えて必死にキーボードを叩き、気持ちを伝えてくださいました。
東田さんにとって、書くことは生きること。自閉症の内面を、まるで優しいタッチの絵のように表現できることが、大きな強みです。

【作家活動・仕事について】

A:東田さんは執筆する際に、原稿の構成などは、全て事前に決めてから書くのでしょうか。それとも書いている中で探っていきますか。
東田さん:全て事前に決めることはないです。言葉は文字にしてみないと、本当に思いを言語化できているのかどうかわからないからです。
自分の思いに合った言葉が見つかると、パズルのピースがはまるように、文章の中にぴったりとその言葉は納まります。
僕は、他の人のようにコミュニケーションをとることができません。言いたいことがあっても、話そうとしたとたんに頭の中から言葉が消えてしまうのです。
言葉を思い出すために、キーボードと同じ配列のアルファベットの文字盤やパソコンのキーボードを見て、忘れてしまった言葉を思い出しています。
他の人に比べて言葉の表出に時間がかかるので、言いたいことが決まったら、できるだけ簡潔に表現するよう意識しています。
僕は、無駄がない美しい日本語に憧れています。
自閉症者にしかわからない感覚もあるので、どんな文章なら他の人にわかってもらえるのか、いつも考えています。
B:執筆に行き詰まることはありますか。「書けない」時の対処法があれば教えてください。
東田さん:何を書くのか「テーマ」で悩むことはありますが、文章が書けなくて悩むことはあまりないです。だから、僕は書く仕事をしているのだと思います。
もし、書けなくて悩んでいる人がいるなら、書きたい場面を頭の中で、一度「絵」にしてみるといいのではないでしょうか。
その「絵」を参考にして、情景や登場人物の気持ちを綴るようにすると、物語性のある文章が書けるような気がします。
C:「絵」といえば、東田さんは絵を描くこともお得意ですよね。どんな作風なのですか。
東田さん:僕は、絵を描くことが好きです。クレヨンで輪郭を描いて、水彩絵の具で色を塗ることが多いです。写真を見ながら、動物や植物を描いています。
僕は、絵の具を塗っているとき、絵の具の色と自分が一体化して、そのものになっています。画用紙の上を自由自在に動き回っているような気分になります。
絵の具がついた筆を水入れの中で溶くのも楽しいです。色と色が混ざり合うこともありますが、別の色になるのを見ると、わくわくします。

D:他にも息抜きできることはありますか。
東田さん:車でどこかに連れて行ってもらうのも好きです。車に乗っているときには、僕は時間を忘れて、窓の外をぼーっと眺めています。目の前に広がる風景は、一瞬たりとも同じものはありません。その時間、僕は少しもたいくつしていません。
空の色や咲いている花、すれ違う車や道を歩いている人々、その様子はまるで映画の一場面のようだからです。
E:仕事をする上で、気をつけている点や工夫はありますか。
東田さん:文章が上手な人はたくさんいます。なので、僕にしか書けない視点や感性を大事にすることを心がけています。
読者は読みながら、いろいろなことを想像してくださっているに違いありません。僕は文章を書くときには、読んでくださる方の思い描く世界が広がるよう、説明し過ぎないように気をつけています。
F:感想をもらうことで、次の執筆に影響しますか。
東田さん:はい、ご感想をいただくことは、とても励みになります。
僕は、文章を書いて発表した瞬間から、その作品は自分のものであって、自分のものではなくなることを知りました。
読者の方から、胸がじんとするようなお言葉や意外なご意見をいただくこともあります。ご感想は、必ずしも僕の予想通りとは限りません。
その文章を読んで、どのような感想を持つのかは、その方の自由です。
僕は、自分の文章を読んでくださる方がいることを、本当に有難く思っています。
G:作家として生き続けるために必要なことはなんだとお考えですか。
東田さん:自分の世界観を持ち続けることです。
人間の感情や思考を言語化するのが、作家の役目だと思います。そのためには、自分が見ている風景、聞こえてくる音、そして伝えたい思いを読者がわかる言葉に置き換えなければいけません。
僕が言葉を紡ぐときには、僕のところへ言葉が舞い降りてきてくれるような感覚になることがあります。
作家として生き続けるためには、「書かずにはいられない」そんな気持ちを失わないことだと思います。

【平和についての考え】
A:今、世界では戦争をし、日本でも問題を抱えて悩む人がいます。東田さんは平和を保つために、どのような社会を作っていきたいとお考えですか。
東田さん:世界には、日本とは異なる文化や生活様式、宗教が存在します。意見の対立は、話し合いによって解決できれば一番いいのですが、簡単ではありません。争いが起きた場合、お互いの存在を認め合いながら、適切な距離感を保つことが重要ではないでしょうか。
心穏やかに、日常が続いていくことをみんなが願っています。違いがあっても、暴力や力で抑え込むのではなく、相手への敬意ややさしさを忘れない。争いが起きても、解決の方法を見つけられる平和な社会を築いていきたいです。
生活の中で問題を抱えている人たちの多くが、人間関係に苦労しているような気がします。
誰とでも仲良くするのは難しいものです。なぜなら、その人の気持ちは、その人にしかわからないからです。
僕も悩みながら、やらなければいけない仕事や自分ができる家事に取り組んでいます。心と体に負担がかかり過ぎないように気をつけて、自分らしく毎日を過ごしたいと思っています。
【新しい挑戦】
A:今後の夢や目標があればお聞きしたいです。
東田さん:僕は、小説を書いてみたいという夢を持っています。これまで自閉症者としての内面を綴ってきましたが、自閉症者だからこそ書ける物事の捉え方があることに気がつきました。
たとえば、鳥が飛び立つ瞬間を見たとき、自分も大空に羽ばたいていくような感覚になったり、「もの」の美しさを自分のことのように喜んだり、時間を線ではなく点でとらえたりすることです。
いつ、どこで何が起きたか、それは作者が自由に決められます。
これまで僕は、エッセイや詩を中心に書いてきましたが、小説でしか書けない世界があるような気がするのです。
暮らしについては、自分ができることを増やしていきたいです。
今は、ときどきヘルパーさんと一緒に家事の練習をしています。いつかは、一人暮らしをしたいなと思っています。

編集後記
東田さんの言葉には、一般の大人では書かないであろう言葉のフレーズが幾つもあります。
詩を読んでいるかのように心地よい文章が、私たちに新しい視点を教えてくれました。
最後にカメラを見てニコッと微笑む東田さん。その表情から、滲み出る優しさを感じ、忘れられない1日となりました。
今後、どんな小説を書かれるのか、私も楽しみです。
撮影:鈴木智哉 取材・執筆:飯塚まりな