ろう者と聴者それぞれの視点から生じる、日常のわずかなすれ違いや疎外感を丁寧かつ繊細に描き出した映画「幸せの、忘れもの。」(2026年5月1日公開)。本作で手話解説をしたのは、フジテレビ系ドラマ「silent」(2022年)でも手話監修をして大変話題になった中嶋元美さん。手話パフォーマーとして活躍中の中嶋さんに、自身の経験や作品に対する思い、表現者としての可能性について語ってもらいました。「silent」は中途聴覚障がいになった佐倉想(目黒蓮さん)と、青葉紬(川口春奈さん)の恋愛ストーリーで “泣いた!” “切ない!” “涙腺崩壊!”とトレンド入りした人気ドラマでした。当時のインタビュー記事も合わせてご覧ください。

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【STORY】
聴こえない世界に生きるアンヘラと、優しく寄り添う夫エクトル。二人は手話というかけがえのない言葉で、心を通わす。アンヘラは陶芸工房で働き、優しい土の匂いと仲間たちにも見守られ、静かで平穏な日々を過ごしていた。しかし、ある “幸せな出来事”を境いに、何かが少しずつ揺らぎ始める…。やがて再び“疎外の世界”に引き戻されるアンヘラ。聴こえない世界とその外側で、時々見え隠れする“本当の幸せ”をアンヘラは、つかまえることができるのだろうか…。

手話解説で映画の楽しみ方が広がる
——:“聴こえない世界”を描いた本作を手話で解説していかがでしたか?
中嶋元美さん(以下、元美さん):映画の手話解説というお仕事は初めてでしたので「共感」を大切にしました。ろう者の方には、主人公アンヘラを通じて日常の中で感じる“あるある”がたくさん詰まっている作品ですし、聴こえる方には「こういう世界があるんだな」と知ってもらえたらうれしいです。また、ろう者を扱った映画だけに限らず、字幕や手話解説があることで、映画の楽しみ方が広がるのでこのような取り組みはいいことだと思いました。

リアリティの正体——“視線”が語るもの
——:この作品のリアリティについて、どのように感じましたか?
元美さん:本物のろう者俳優にしかできない表現が印象的でした。特に目線の使い方や、感情の表し方がとても自然なんです。聴こえる人が想像で演じるのとは違って、実際にその世界を生きているからこそのリアルさがありました。
——:具体的にはどのような場面でそれがわかりますか?
元美さん:例えば、アンヘラが聴こえる人たちの中にいるシーン。多くの人はろう者が聴者といるときには「口を見ている」「口を読んでいる」と思っているかもしれませんが、実際にはもっと大きく捉えていて、広く周囲を見ています。なのでアンヘラも周りがよく見えるように少し引いて座っているシーンもあります。これは、誰かが横から話しかけるかもしれないし、別の人の動きや変化も感じ取ることができるからなのです。その“視線の広がり”がとてもリアルで、作品の説得力を高めていました。

——:日常の中で、アンヘラのような孤独や疎外感を感じることはありますか?
元美さん:あります。手話や筆談で仕事上のコミュニケーションは取れても、ふとした雑談に入れないことがあるんです。その場のジョークや流行りの話題に入れないとき、「孤独」というより「ここに自分がいる意味があるのかな」と感じる瞬間があります。それはアンヘラの感じている世界と重なる部分だと思いました。

“幸せ”のかたちは一つじゃない
——:印象に残ったシーンを教えてください。
元美さん:親との衝突のシーンです。聴こえる親だからこそ、補聴器を勧めたり、妊娠を素直に喜べなかったりする。その背景には愛情があるからこその葛藤があります。私自身も両親が聴こえるので、同じように心配されて言い合いになることがありました。このシーンだけではなく出来事の全てが同じろう者として体験したことのあるシーンが多かったです。なので、この作品は特別な出来事というより、日常の中にあるリアルな感情を丁寧に描いていると感じました。

——:この作品をどのように観てもらいたいですか?
元美さん:ろう者や難聴者の方だけでなく、手話や聴こえない世界を知らない映画ファンの人たちにこそ観てほしいです。そのような人たちが偶然この映画を観たときに「何を感じるのか」を知りたいですね。そして、「かわいそうな障がい者」という見方ではなく、「聴こえることと聴こえないことの違いって何だろう」と考えるきっかけになってほしいと思います。最終的には、ろう者だからではなく、一人の人間として見てもらえる社会になってほしいですね。

——:タイトルにもあり、映画のテーマにもなっていますが、元美さんにとっての“幸せ”とは?
元美さん:人それぞれだと思いますが、私は“推し活”が好きです。好きなものを楽しんでいる時間に幸せを感じます(笑)。辛いことがあったとしても次に起こることが幸せかもしれない。自分にとってのプラスがひとつ見つかるような瞬間がわたしは好きです。

——:今後の活動について教えてください。
元美さん:私は手話パフォーマーなので手話を広めたい気持ちはもちろんありますが、それだけでなく 手話を「ひとつの表現」として届けていきたいです。1つの言語として表現している活動なので、エンタメや芸能が好きな方々が私のパフォーマンスに魅力を感じて好きになって貰えたらうれしいです。手話だからろう者だからにこだわらない私の新しいエンタメを世の中の人達にもっと知ってもらえたらいいなと思っています!

——:本日はありがとうございました。
元美さん:ありがとうございました。
2026年5月1日公開 「幸せの、忘れもの。」
悲しみの静寂が胸に迫る、優しさに包まれた、大切な家族の物語

<受賞・ノミネート>
【第55回ベルリン国際映画祭】 パノラマ部門 観客賞 受賞アート・シネマ賞 受賞
【第28回マラガ映画祭】 観客賞 受賞主演女優賞 主演男優賞 受賞
【第69回バリャドリッド国際映画祭】 金のビスナガ(最高賞)受賞
【第40回ASECAN】 オペラ・プリマ賞(新人長編映画賞) 受賞
【第2回ラテンアメリカ批評家協会賞】 ヨーロッパ映画部門 受賞
【第40回ゴヤ賞】 最優秀新人監督賞 最優秀新人女優賞 最優秀助演男優賞 受賞
ベルリン国際映画祭2冠/スペイン・マラガ映画祭3冠/ゴヤ賞3冠 世界の映画祭が賞賛!
© 2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE https://shiawase-film.com
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
中嶋元美さん(NAKAJIMA MOTOMI)

中嶋元美さん/なかじまもとみ(聴覚障がい)8月18日生まれ
手話パフォーマー。舞台やドラマ、CMなどで活躍。フジテレビ系ドラマ「silent」手話監修など、映画・ドラマの手話監修多数。マイクを持たないアイドルとして舞台に立っている。
★ミュージカル 「ASURA」出演 7/1(水)〜7/5(日)ザムザ阿佐谷
◯オフィシャルファンクラブ https://mochi818.thefam.jp
■過去記事
■取材・記事 加藤珠由