“ブラインドサッカー”って知っていますか?「音」から「空間把握」の世界を語り合うイベント視聴レポート

2021年3月6日、アートプロジェクト「TURN」の可能性について考え語り合う「TURNミーティング」を視聴してきました。第13回となる今回も、コロナ禍の中、オンライン開催となりました。

障がいの有無、世代、性、国籍、住環境などの背景や習慣の”違い”を超えた、多様な人々の出会いで表現を生み出すアートプロジェクト「TURN」。

今回は、聴覚や身体感覚を通した『空間把握』の世界が、トークのキーワードとなりました。

ゲストとして、ブラインドサッカー選手の駒崎広幸(こまざき・ひろゆき)さんと鳥居健人(とりい・けんと)さんが、リモートで出演!

左:駒崎広幸(こまざき・ひろゆき)さん  右:鳥居健人(とりい・けんと)さん  

駒崎さんは、34歳で後天性の網膜色素変性症により視覚障がい者となり、44歳でスポーツを始めて、45歳でブラインドサッカーチーム「埼玉T.Wings」に入団。ブラインドサッカー以外に、ブラインドボクシングもされています。

鳥居さんは、2歳で失明。11歳でブラインドサッカーを始め、15歳でブラインドサッカー日本代表として、世界選手権に出場されました。現在は、ブラインドサッカーチーム「free bird mejirodai」でプレーされています。

●ブラインドサッカーってどんなスポーツ?

第一部は、鳥居さんと駒崎さんがブラインドサッカーについてお話ししてくれました。

ブラインドサッカーとは、視覚障がい者と健常者(目が見えている人)が一緒になってするサッカーで、5人対5人で対戦し、フットサルのルールに近いですが、ボールの位置を把握するために音の鳴るボールを使います。フィールドのサイドラインには、高さ120センチ程のフェンスがあり、選手やボールがサイドラインの外に出ないようにされています。ガイド、ゴールキーパーは目が見えている人または弱視者がアイマスク無しでプレーし、それ以外のフィールドのプレーヤーはアイマスクをつけて完全に見えない状態でプレーします。見えている人と見えていない人が一緒になって協力し合わなければ出来ないところが大きな魅力といえます。

私は、ブラインドサッカーというスポーツを初めて知りましたが、音の鳴るボールを使ってプレーすることに対しどうやって行うのか、疑問でした。しかし、鳥居さんの説明やプレー中の動画を観て、目が見えていないとは信じられないくらい的確に動き、しかもゴールも決めていて、普通のサッカーと遜色(そんしょく)ない試合展開に驚きました。

●目ではなく、身体で感じる感覚

第二部は、身体感覚を通してとらえる世界観について。

 ブラインドサッカーは、さまざまなところで相手との駆け引きがあり、それは将棋に似ているそうです。足の音、ボールの音、風の流れ、声など、いろいろな情報を取り入れて、駆け引きに使うのだとか。

音を味方にした“音フェイント”はブラインドサッカーならではだと思いました。

鳥居さんは、いろいろな音を情報として、自分や相手の位置を頭の中に絵として描き込んでいます。イメージしながら、その時々のシチュエーションにおいて、重要な音を聞き分けながらプレーしているそう。イメージがずれた時は自分の感覚とのずれを直します。この作業はブラインドサッカーでは大変重要で、練習を繰り返すのだそうです。

駒崎さんは、ブラインドボクシングもしています。ブラインドボクシングとは、打ち合いは無く、イメージとしては空手の形のような競技。目隠しをしたプレーヤーが、首に鈴をかけた敵役のトレーナーのミットに向かい、2分間のスパーリングを行います。この鈴を頼りに動きます。体のバランス、プレー中の見た目がとても大事で、そこがブラインドボクシングの難しいところだそうです。

駒崎さんのお話を聞き、動画を観て、鈴の音と人々の声などが騒々しく行き交うなかで、脳内で瞬時に見極めて動きとして表現している姿は、目が見える私の想像を遥かに超える分析能力だと感じました。私には想像もできません!

駒崎さんのお話によると、ブラインドボクシングでは相手との距離を測るのが難しいため、音を聞きながら、ふれる、想像するそう。例えば、ブラインドサッカーでは音をオデコでとらえるのですが、ブラインドボクシングの場合は、つま先で音をとらえると語っていました。ブラインドボクシングでは相手に対して斜めに構えるため、正確にパンチを出す基本ポジションが大事なのだとか。また音を一旦耳で聞くと体のアクションまでにどうしてもワンクッション時間をとる必要があるため、動きが遅くなるので、つま先で聞くイメージを持つそうです。

●視覚障がい者にとっての「音」とは?

コロナ禍で人の声や物音などが減り、視覚障がい者の人たちにとって必要な情報も減っているそう。日常のなかでの「空間把握」がいつもと違っているといいます。

「きく・ふれる・そうぞうする」という感覚が、人それぞれにあって、自分の持っている感覚をもっと掘り下げて興味をもつことは大事だと、鳥居さんは語ってくださいました。また、自分と違う感覚や自分が苦手とする感覚を持っている人たちはどういう感性か交流することも大切。健常者・障がい者もそれぞれの個性があり、いろいろな個性を持った人たち同士がお互いに知り合うことがとても大切なのです。

音の世界の楽しさを知って、自分自身でも目を閉じていろいろ想像してみました。音は知らない間に入っているのに、目が見えていると、テレビ、映画、演劇などを観る感覚はほとんど視覚が占めています。しかし、視覚以外の感覚を使おうと意識すれば、今まで気づかなかった音に対して敏感になると感じます。

視覚のない世界観を知り、それは今まで小説や漫画を読む際などに無意識におこなっていた絵や音の想像とはまた違う感覚なのだということに気づきました。日ごろから聴覚も意識していくと、違った感覚の世界も発見できそうです。

また、いつも常に聞いている雑踏の音も、視覚障がいの方々には重要な役割を果たしていることにも改めて気づかせてもらいました。これから今まで以上に音の世界を意識していきたいです。

TURN監修者の日比野克彦(ひびの・かつひこ)さんが、実際に体感していらっしゃいます。

主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、特定非営利活動法人Art’s Embrace、国立大学法人東京芸術大学

TURN公式ウェブサイト:http://turn-project.com

(撮影:鈴木竜一朗)

この記事のライター/岡本千尋 下垂体前葉機能低下症(成人GH分泌不全症)生まれつき脳の下垂体に腫瘍があり、2016年に正式に病名が付き難病者に。関西外国語大学短期大学部英米語学科卒業後、接客業や事務などの経験を経て、2020年からライターとして活動を開始。