Special 対談「当事者編集長としてのダイバーシティ(多様性)との向き合い方、メディアの役割とは」

昨今「ダイバーシティ」や「心のバリアフリー」の重要性を、耳にする機会が増えました。

一方、これらの問題が語られる際に「障がい」を持つ当事者の存在が
置き去りになっているなと感じることがあります。

そこで、今回は「なんとなく生きづらい」人たちの
「なかなか知らない」リアルを切り取るWEBマガジン「Plus-handicap」編集長の佐々木さんを迎え、
障がい当事者としてメディアを発信している二人だからこその視点で、これらについて語り合いました。


sasaki

佐々木一成(31歳)
生まれつき両足と右手に障がいがあり、普段は右足に義足、左足に装具を付けて生活している。
2013年より、「なんとなく生きづらい」人たちの「なかなか知らない」リアルを切り取るWEBマガジン
「Plus-handicap(プラスハンディキャップ)」を運営中。
公式サイト https:plus-handicap.com


motoyama

元山文菜(36歳)
変形性股関節症による中途障がい。現在は、人工の股関節を入れて生活している。
4歳の娘を持つワーキングマザー。障がい当事者、女性、母親という立場からダイバーシティについて考える日々。2016年より「Co-Co Life☆女子部」の編集長。


「障がい者」のイメージを変えていきたい

元山:障がい当事者としてメディアを発信する佐々木さんの存在は、私と似た境遇で、
ずっと気になっておりました。お会いできて光栄です。
佐々木さんが「プラスハンディャップ」を始めたキッカケからお伺いします。

佐々木:「障がい者」っていうと「ツラい」「大変そう」とネガティブなイメージが多い。
何故かと考えると、今まで「障がい者」ってそこまで社会に出て来ていなかった。
「24時間テレビ」もそうですけど、頑張っているところだけをピックアップされがち……。
そこに対する「イヤ感」みたいなところが原点ですね。

元山:障がい者に対するイメージは、当事者が作ってきた面もあるということですか?

佐々木:ある程度、当事者が作っているものもあるはずです。
社会の中で、障がい者がもっと外に出て普通に暮らしたり、遊んだりしていたら、
ネガティブなイメージではなく「そういう特徴がある人だよね」って捉え方になるはずだと思うんですよ。

元山:でもそれって、障がい者が外に出る環境が、まだ整っていないからもあるのでは?

佐々木:たしかに。ただ、僕としては「社会が悪い」「障がい者が悪い」というような
二元論的な考え方が好きじゃなくて、
「どちらにも原因はあるし、両方歩み寄る必要があるんじゃない?」ってことを考えてみたいです。

元山:なるほど。そういう意味で「障がい者」だからって、過度に優しくする必要もないということですね。

佐々木:そうなんです。目の前に困っている人がいたら助ける。
困っているって感じてるんだったらお願いすれば良い。単純な話なんだと思います。

元山:でも、それが難しいですよね……(笑)。私自身、言えないタイプかもしれません。

佐々木:ただ、発信しないと分からないですよね。「 察してよ!」って、それはなかなか難しい。
僕は障がい者雇用のコンサルタントの仕事もしているのですが、「合理的配慮」は雇用の現場にも求められます。
障がい者側は企業側に配慮を求めて然るべきですが、何を配慮してほしいのか、
具体的に伝えなければ、企業にも伝わりづらいんです。「察してよ」だと企業側もしんどい。

元山:なるほど。これは、障がいの有無に関わらず言えることかもしれませんね。
健常者の方の中にも「察してくれなかった」と愚痴(ぐち)をこぼす人はいますし。
ただ障がい者が企業に対して「察してくれなかった」と言うと、
「配慮が足りなかった。すみません。」みたいな雰囲気になりやすい。

佐々木:そうですね。性格的な部分はあれど、自分からきちんと発信をしないことには
やっぱり伝わらないと思います。
また、障がい当事者も「いつも助けてもらうことが当たり前」ではないんじゃないかと。
目の前に困っている人がいたら手を差し伸べる側にならないと。
「自分たちのことを発信したい」「自分たちの意見を理解してほしい」と思うなら、
社会の意見や当たり前と思われていることを汲み取る必要はあるんじゃないかな。

元山:そうですね。ただ、配慮は絶対に必要。
だから、いままで配慮されなかった人達が自分たちの権利を社会に対して、
声高に発信してくれたことで、道が整ったところはあるなと思います。

佐々木:そうですね。先輩方が道を開きハードの部分を作ってきてくれている。
だから、ソフトの部分は今後、僕らが作っていかなきゃいけないという使命感は持っています。
障がい者に対するイメージを変えていきたいですね。

お互いのメディアとしての役割は?

佐々木:「Plus-handicap」は、知っていそうでなかなか知らない、
言えそうでなかなか言えないことを伝えることが役割。
時には「当事者が目をそむけたくなるような意見でも伝える」っていうこともあります。

元山:なるほど、「Co Co-Life☆女子部」は「一歩外に出ようよ」っていうのが大きなテーマです。

佐々木:これは役割分担ですよね。社会って「お花畑」のような優しい世界ではないから、
社会が想像していた世界と違うからと言って、また「生きづらい」世界に戻られたら困ります。
だから、社会の中で生きていくためには、
「意識と行動を変えていかなきゃダメなんじゃない?」ってことを伝えていきたいんです。

元山:それって、落ち込んでいる人に対して、更に暗いものを見せるってこと?
私は、「社会はお花畑」で良いと思うんです。外には楽しいことがいっぱいある。
一緒に一歩、外に出て遊ぼうよ、と伝えたいですね。

佐々木:例えば、引きこもりの人に「社会は楽しいよ」って言って、
外に出た時に対人関係でつまずいて再起不能になっちゃったら、僕は責任とれないなあって思うんですよ。
だから本人にとって「良い話」も「悪い話」もあって良いと思ってる。
そして、良い話を伝えるメディアは世の中に多いから、僕はこっち側に旗を立てているんですよ。
なので、棲み分けですね。いろんなメディアがあって良いんじゃないかな。

元山:確かに、そうですね!

佐々木:たとえば、「障がいはありますが、普通に暮らしています」みたいな障がい者が、
実のところ感じている「生きづらさ」にスポットを当てるとか、そんな発信をしたいと思っています。

元山 :私の子育ての経験で、まさにそういうことがありました。
私は「見えない障がい」なのですが、子育てて一番ツラかったのは、ママ友ができないことなんですよ。
心から悩みを打ち明けられる相手がいない 。
例えば、私は抱っこができないのですが、ママ友が「昨日は一晩中、抱っこだったよ〜」なんてグチると
「抱っこできるだけいいじゃん…」って、ブワっと苦しさが押し寄せてきて。
卑屈モードに入っちゃう。

佐々木: Plusはそういうところを発信していきたい。
「抱っこできるだけ良いじゃん。みんな好き勝手言って、なんなの……」みたいなところが欲しいです。
「仕事をしながら、子育てしつつ、ツラいながらも充実しています!」みたいな局面は、
「Co-Co Life☆女子部」のメディア作りが合っているのかもしれませんね。

元山:なるほど。メディアの役割分担がよくわかりました。画一的なのは良くないですよね。

佐々木:メディアの読者も様々なので、多様な発信を通じて「多様性を受け入れられる」スタンスというか、
心構えが根付いていけばいいなと。

元山:あぁ、私もそれはすごく大切だと思います。
私自身、自分の価値観に合わないことでも、「一回飲み込む」ようにしています。
そして、自分の考え方や価値観で咀嚼(そしゃく)した上で、発信をするように意識しています。
「これが常識でしょ?」みたいに突っぱねるのはよくないなって。

佐々木:なるほどねぇ…。一時、僕の中で座右の銘が「正しさを手放す」だった。
「こだわりを捨てる」とか。多分「一回飲み込む」と似ていると思うんですよ

元山:そう! 似ていますね!

当事者が考える心のバリアフリー

佐々木:当事者も寛容性をもつことが重要ですよね。
心のバリアフリーって、他者に求めるものじゃなくて、自分から広げていくもの。
まず、自分のバリアを取っ払えば、相手も応えてくれるのでは?

元山:なるほど。私は「障がい者・健常者に関わらず相手の意見を一回飲み込みましょう」と伝え続けたいですね。
自分の意見を理解してもらおうと思うだけではなく、受け入れることも必要。
日々を生きやすくするためには、求めるばかりではなく自分の意識を変えることも大切なことだと思います。

今回の対談を通し、ターゲットとする読者層や、発信のアプローチは違うけれど、
「Plus-handicap」さんと「Co-Co Life☆女子部」が目指すべき世界は同じだと感じました。
多様な人々が混ざり合う社会は、誰もが生きやすい社会の実現につながるはずです。

そして、時代は刻一刻と変化しています。
障がい者の果たすべき役割も大きく変化しているように感じています。

当事者である私たちだからこそ、見えている世界があります。
だからこそ、社会に対して提案できることも多くあるはずです。

その為にも、世の常識や意見みたいなものを上手く汲み取るしなやかさも大切にしていきたい。
それらを飲み込んだ上で、「社会をよくしたい」という思いを込めて
私自身の意見や思いを提案し続けていきたいなと思います。

私達の声が、社会をもっとよくするヒントになるのだと強く信じています。

編集・文:元山文菜 写真:鈴木智哉