ドラマ「silent」の聖地でインタビュー 手話監修の中嶋元美さん

「泣ける!」と話題のフジテレビ系ドラマ「silent」。高校卒業後に中途聴覚障がいになった目黒蓮さん演じる想と、川口春奈さん演じる紬のラブストーリー。TVerの再生回数が歴代フジテレビ番組の記録を塗り替えたり、#silentがTwitterのトレンド入りしたりと大反響。20代の恋愛や障がいのある人の感情をリアルに描いているこの作品には、制作現場で実際に聴覚障がいの方々が携わっています。今回は、ドラマの手話監修・指導を行っている中嶋元美(なかじまもとみ)さんにドラマの舞台にもなっている場所をめぐりながら「silent」の魅力や、聴覚障がいと恋愛についてインタビューしました!

ーあらすじー       
高校時代、青葉紬(あおばつむぎ・川口春奈)と佐倉想(さくらそう・目黒蓮)は付き合っていました。紬は想の声が好きで、彼に惹かれたのも声がきっかけ。電話で話す想との時間を愛おしく思っていました。しかし、高校卒業後のある日突然、理由も言わず文字のメッセージだけで別れを告げて姿を消してしまった想。しかも、紬だけではなく、なぜか想は高校時代の友人全員と連絡を断っていました。時が経って8年後、雑踏の中でかつて大好きだった恋人で突然いなくなった想を見つけた紬。しかし再会も束の間、彼は“若年性発症型感音性難聴”を患い、聴力をほとんど失っていました……。

©フジテレビ

親近感が沸いてくる
そんなドラマなのではないでしょうか

ー「silent」今本当に話題ですね!
中嶋さんはこのドラマの魅力はどんなところだと思いますか?

想くんと紬ちゃんがどうなるのか!じゃないでしょうか(笑) 今まで手話というと可哀想ストーリーが多かったのですが、このドラマはリアルで親近感のある恋愛ストーリーの中に聞こえない人が出てきます。私もその親近感が好きです。そして、中途失聴でも多様な生き方があるということを知ってもらえそうな気がします。

ーどのような経緯で手話監修のお仕事の依頼が来ましたか?

想と生い立ちや人生経験が近いこと、そして年齢も近いということで依頼して頂きました。

ー「手話監修」とはどのようなお仕事ですか?

撮影ごとに手話のレッスン、演じる上での参考になるように、気持ちの面や仕草についての指導をしています。

ー具体的にはどんなことをしていますか?

手話監修は2名で役割分担をしています。よりリアルな表現となるように、生まれつきろうの方は夏帆さん演じる奈々を中心に指導して、私は中途失聴である想や手話の勉強を始めたばかりの紬を中心に指導しています。
聞こえない役の方が出るシーンには必ず付き添っていて、監督と一緒に映像の確認も行っています。
配役が決まった段階から手話のレッスンをしていて、プロデューサーさん、監督さん、脚本家さん、俳優さんたちに向けて自分の経験をお話しさせて頂きました。

「手話は言葉」
聞こえない人の大切な言葉なので
大事に芝居をしてほしいと伝えました

ー俳優さんたちの手話は、SNSでも話題になっていますね!
撮影現場の雰囲気はいかがですか?

出演者のみなさんは、積極的に手話を覚えたい!と話しかけてくださって、手話通訳さんなしでも雑談や確認をしたりとだんたん会話ができるようになってきていて嬉しいです。監督やスタッフさんも手話であいさつをしてくださったり、スタッフさん同士でも合図として手話を使用したり。「便利だねー!」と皆さん手話を楽しんでいます。

―第1話の目黒蓮さんの初めての手話シーン
あの演技には涙腺崩壊した視聴者が続出して大変話題になりましたね

8年ぶりに好きな人である紬と再会し、あえて今の自分の言葉である手話で話したところに、私もグッときました。私たちは手話を指導・監修しているだけで、全ては俳優さんの演技力で成り立っているので、すごいなと思います。

どのシーンも好きですし
思い入れも深いです

-想は「好きな人がいる」と言って別れを告げましたが、それは紬を思うがゆえの行動でした。中嶋さんは好きだけど障がいが理由で身を引いてしまうことはありますか?

「障がいが理由になってしまうほど、自分に魅力がないのか?」と思うので、障がいを理由に身を引くということはないです。相手に助けてほしいとか、聞こえないことを補って欲しいとは思わないです。

―ドラマ内でろう者同士カップルになることが多いと言われるシーンがありました。聴者がろう者を好きになったとき、どうアプローチすればよいですか?

確かに、出会いや環境を考えるとろう者同士が多いのかなとは思います。でもそれはただの一般論。私は恋愛対象は聞こえる・聞こえないにこだわらないです。好きになった人が聞こえなかったとしても「その人の言葉で話したいな」と思ってもらえるような恋だと素敵ですよね。例えば、好きになった人が外国人だったときと同じだと思います。

好きになった人が好きな人
私は聞こえる・聞こえないにこだわらない

―好きな登場人物を教えてください

ドラマのキャラクターでは、春尾先生と古賀先生が好きです!(笑)
春尾先生の謎の空気漂わせる何かあるなこの人感、ひとつひとつのセリフがすごく深くて確かにそうだよね!みたいな共感も湧きます。
古賀先生は想くんと再会しても聞こえない想くんに対してなんかしてあげようとか助けてあげようという感じはなくて、高校生のときのままの先生なところがすごく好きです。

―注目シーンなどはありますか?

紬の手話が上達していくところが注目です!
ストーリーが進むにつれて話せる単語の数が増えていっています。紬は想の手話をいつも見ているので想と同じ単語の使い方をしたりもしています。手話教室で教わった部分だけでなく、傍にいる人物から影響を受けているという流れはとてもリアルです。手話指導、翻訳の際もそういったことも考えています。ぜひ注目してみてほしいですね。

大きな一歩を踏み出すだけで世界が変わる
むしろ今の方が楽しい

ー中嶋さんは、高校生のときに聞こえなくなったそうですが

私は恐らく、生まれつきの難聴だと思います。幼少期から耳鳴りもあったのですが「それが普通だ」と思っていたので、病気になかなか気づけませんでした。中学生のころに感音性難聴であることが分かり、高校1年の3月、マラソンの練習中に頭が痛くなり、全く聞こえなくなりました。大好きな音楽を聴けなくなってしまうのは悲しかったし、これからのことを考えて不安もありました。

ーその不安はどう乗り越えましたか?

私はバレエをやっていたのですが、障がいが見つかって諦めざるを得ませんでした。それでも踊ることは続けたかったので母が手話パフォーマンスを紹介してくれました。それがきっかけで手話に出会い、そこからまた新しい第二の人生が始まってからはすごく幸せです。もちろん聞こえなくなった時は悲しさはありましたがそこにずっといても変わらない、大きな一歩を踏み出すだけで世界が変わります。むしろ今の方がすごく楽しいです(笑)

ー手話を始めたときはどんな感じでしたか?

手話は空中に描かれる目で見て分かる言葉でした。難聴のときに人に合わせて笑ったり、生きてきた私にとって手話との出会いはすごい感動がありました。

ーコミュニケーションはすべて手話ですか?

今は第一言語を手話にしています。想と同様に家族の前でしか声を使いません。声で話してしまうと、聞こえると誤解されてしまうし、声で返されてしまうと自分が大変になってしまうからです。

聞こえる・聞こえないに関係なく
手話はお互いが対等でいられる方法

ー最終回まで目が離せませんが、ドラマ「silent」の視聴者に向けてメッセージをいただけますか

ストーリーもいよいよ後半戦。どのような展開になっていくのか私も視聴者の一人として楽しみです。劇中に登場する手話だけでなく、俳優さんの細かい演技や仕草、背景に注目して見てみると楽しいかもしれません。みんなで作っているこの作品が、もっと愛され、多くの人に見てもらえれば良いなと思います。

ー本日はありがとうございました
中嶋さんの今後の予定や目標を教えてください

エンターテイメント業界で活躍することが目標で、手話で歌うアイドル・ミュージカル女優が目標です。どんな役であっても、手話での演技ができると思っているので、手話でも魅せられることをもっともっと知ってほしいと思います!

いろんな国の言葉があるように
手話もひとつの言葉として知ってもらえれば嬉しいです

中嶋元美さん(聴覚障がい)8月18日生まれ

手話パフォーマーとして10年程前から活動。舞台やドラマに多数出演。映画、ドラマの手話監修。現在はゼロプロジェクトというアイドルグループに所属。ダンスを極め、マイクを持たないアイドルとして舞台に立っている。

You Tube「ハピもちchannel-中嶋元美」

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「Silent(サイレント)」の手話を教えてもらいました♪

最終回、目前! 中嶋さんにコメントをいただきました!!

ー2022年10月からスタートしたドラマ「Silent」いよいよ今週12月22日(木)で最終回ですね。今の心境を聞かせてください!

今回、このドラマに関われて本当に楽しかったです! このドラマをきっかけに手話を勉強したいと思ってくれる方もいてとても嬉しいです。 街中のクリスマスの雰囲気を味わいながら、最後までそれぞれのキャラクターの手話とドラマも楽しんでいただけたらと思います♪

ーー取材を終えてーー

ライター:榎本佑紀

現在とても話題になっているドラマ「silent」。なぜこれだけ話題になっているのか私なりに考えてみました。1つは中嶋さんのインタビューにも出てきた「普通の恋愛ドラマの中に障がいのある人が出てくる」という部分にあるのではと思います。

そしてもう一つは「障がい者のリアルを丁寧に描いている」ことではないでしょうか。障がいがあることで周りの人に迷惑をかけてしまう…、そんな葛藤もドラマの中に描かれています。聴覚障がい以外の障がいのある方にも共感度の高いストーリーになっています。

中嶋さんのインタビューを通して、役柄の障がいに合わせて手話監修の役割分担をしているというところも印象に残りました。ドラマにリアリティを持たせるために、細かい工夫が欠かせないと分かりました。

ドラマも終盤に差し掛かっていますが、今後は作品を後ろで支えている中嶋さんたち手話監修の皆さんの活躍も頭に入れながらドラマを楽しもうと思います。 

©アネアカフェ松見坂

■ライター

榎本佑紀 (31歳・脳性まひ)

■撮影

鈴木智哉

■編集

加藤珠由

■撮影協力

ダイタデシカ:https://www.daitadesica.com/

お粥とお酒のお店 ANDON:https://shimokita.andon.shop/