『誰もが笑顔で過ごせる未来をつくるため、今アクティブに活動している人を紹介するインタビューシリーズ「みらい人(みらいびと)」』。第7回は、脊髄性筋萎縮(SMA)と向き合いながら、講演活動や誰もが一緒に楽しめる場づくりを企画している鈴東裕己(すずひがし・ゆうき)さんの登場です。
いろんな人と関わっていく中で「介助を頼んでいいんやな」と思った
進行性の筋力低下や、筋萎縮が症状として挙げられる脊髄性筋萎縮症の当事者である鈴東裕己さん。1歳半で診断がおり、保育園時代には手押し車椅子を利用していました。小学校3年生から電動車いすに乗るようになり、行動範囲が広がったそうです。
中学校・高校と自分の障がいや周りとの違いを受け入れられずにいました。
高校受験の際には、体育や音楽といった副教科の内申が足りず、希望の高校に入学できなかった経験もあります。
転機となったのは、ゲームプログラマーを目指し入学したコンピューター専門学校での出会い。「専門学校にボランティアセンターがあり、そこで食事やトイレ介助をボランティアセンターのスタッフさんに依頼していました」。ボランティアセンターの職員さんとの出会いが交流、行動の幅を広げ、映画に行ったり、カフェに行ったりと友人のような関係性であったといいます。
高校時代までは、閉鎖的だった鈴東さんですが、ボランティアセンターの職員さんとのつながりをきっかけにして、同世代の友人が増えました。
「それまでは助けてもらって申し訳ないという気持ちが強かったのですが、いろんな人たちと遊ぶようになり、介助を頼むことは申し訳ないことではないんだなと思うようになりました」。
「鈴東君にしかできないことがある」印象に残った上司の言葉
卒業してからも、友人がまだ在学していたこともあり、専門学校へ遊びに行っていた鈴東さん。重度障がいにより、就職活動が思うようにいかなかったこともあり、ボランティアセンターでインターンをすることになりました。
3か月ほど、業務の手伝いをした後に、正式にボランティアセンターで採用されます。
働き始めて、1〜2年がたったある冬の日。体調が悪かったこともあり、車いすの操作がうまくいかず、1時間遅れて出勤することとなってしまいました。
普段から自分にできることはあるのだろうか…と不安に思っていたことや、申し訳なさから
「こんなに、皆さんに迷惑をかけるようだったら、もうこの仕事を辞めた方がいいと思います」と職場に伝えたそうです。
それを聞いた上司は「そんな風に思わないでいいから。できないことに目を向けるよりも、自分のできることを一生懸命やってもらうことが1番チームにとってありがたい」と言葉をかけてくれたそうです。
「今までは、自分のできないことばかりに目を向けていたけれど、そうではなく、できることをもっと頑張ることで財産になるんだな」と思うようになったと話してくれました。
それから、専門学校で障がいのある人への接客サービスについての講義や、社会福祉法人での人権教育などに関わるようになります。
人前で話すことが好きだったこともあり、これ以降講演活動に力を入れています。
ほかにも、ボランティアセンターで働いているときに3週間の休みを取り「障がい者の天国」と言われるアメリカ・カリフォルニア州バークレーに留学した経験も。
そこでCIL(自立生活センター)の見学や、バークレー大学がどのように障がいのある学生をサポートしているのか話を聞きに行ったりしたそうです。バークレーに一人で行き、現地のヘルパーさんにサポートしてもらったそうです。
この経験を通して、自分の可能性は無限であるということに気づいたそうです。
障がいがあってもなくても気軽に飲みに行きたい
29歳のころ、6年半勤務したボランティアセンターでの仕事を辞めてフリーランスに転向します。
「仕事を辞めたのは、ボランティアセンターの同僚の影響が大きいです。その人は、自分自身がやりたいことにもっと力を注ぐためという理由で仕事を辞めていきました。僕はそれまで、必要とされるのであれば、働き続けるという選択肢しかなかったのです。しかし、もっと僕にしかできないことがあるのではないかと思うようになり、フリーランスになりました」。
今、鈴東さんには講演活動以外に力を注いでいる活動が2つあります。
1つ目は「ミーツ・ザ・福祉」。福祉を身近に感じてもらうだけでなく「障がいのある人」や「健常な人」ではなく、「○○さん」と知り合えるイベントです。以前のイベントでは、車いすリレーマラソンという企画を行いました。今年のミーツ・ザ・福祉は、10月26日 土曜日に開催され、新喜劇や音楽ライブ、バリア探しゲームなどを行います。
そして2つ目は「ユニbarサル」。お酒が好きな鈴東さんですが、車いすユーザーが飲みに行くのには、お店がバリアフリーなのかどうかや、お手洗いの問題があります。
気軽に飲みに行くのには、ハードルが高い部分も多いです。そこで、障がいがあってもなくても気軽に集まる場(bar)を作ろうというプロジェクトがユニbarサルです。
現在は、月1回 第1木曜日にオンラインで集まり、様々な情報交換をしています。
9月20日 リアル「ユニbarサル」開催
普段はオンライン開催ですが、2024年9月20日には、大阪府豊中市にてイベントを行います。
会場となる「ネッツトヨタニューリー北大阪」には、パーソナルモビリティのWILLや、ポータブルチェアの展示がされます。ほかにも、アルコールが出されたり、キッチンカーによる食事の提供も行われるそうです。
参加お申し込みは以下のURLから
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScbBTXkvUhsdivf9ZIls77VAv_QWfVVqU9fnTqFtaP_7Lr05g/viewform
出会いを大切にしてほしい
気になる恋愛に関しても質問してみました。「唯一の苦手分野ですね。アプローチがうまくいかずに友達どまりになってしまいます。恋愛ができれば僕は最強になると思います」。
今後やってみたいこととして「障がい者就労の課題をすごく感じているので、障がいのある人と職場の橋渡し役になりたい」と話してくれました。
その一環として、将来的にはユニbarサルの実店舗を持ち、そこで障がいのある人たちが接客したり、1日店長のような形にしたいそうです。
自分の障がいと向き合いながら、様々な取り組みをしている鈴東さん。
障がいを理由にアクティブになれない読者に向けて「僕自身も昔は自分の障がいが嫌いでした。しかし、いろいろな出会いを通して成長し、変わっていきました。なので、みなさんもたくさんの出会いを作ってほしいと思います」。とエールを送ってくれました。
取材を終えて
重度障がいと向き合いながら、世のため人のため、様々な活動に取り組んでいる鈴東さん。そのパワーに圧倒されました。恋愛でも素敵な出会いがあり、最強の鈴東さんになって欲しいです!
鈴東裕己さん
1998年12月23日生まれ。大阪在住。大の野球好き。恋愛面では、うまくアプローチ出来ない面があるそう。
FB:https://www.facebook.com/yuuki.suzuhigasi
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCR4UgHVLu9hNKqcgY_WHD5A
撮影:タケダトオル 取材・文:榎本佑紀