みらい人#11 音楽で届けるエール 〜全盲のシンガーソングライター・大石亜矢子さんの即興ソング体験〜

「誰もが笑顔で過ごせる未来をつくる」ため、アクティブに活動を続ける人を紹介するインタビューシリーズ「みらい人(みらいびと)」。第11回は全盲のシンガーソングライター大石亜矢子さん。5歳でピアノを始め、武蔵野音楽大学声楽科を卒業。現在は子育てをしながら音楽家としても活躍され、個人セッションによる即興ソングを作ることも。今回は大石さんが読者モデルにヒアリングを行い、その場で即興ソングを歌うパフォーマンスを披露します。

盲導犬との別れと新たな一歩

目が見えない人がピアノを弾くとはどういうものなのか。大石さんに、取材班から「実際に弾き語りを見せていただきたい」とオファーしたところ、快く引き受けてくださいました。

生まれつき全盲の大石さんは、子どものころ、レコードから流れるコーラスの響きに感動し、音楽の世界に引き込まれました。目が見えない分、今でも人一倍、音や言葉にはとても敏感です。

現在は地域のイベントや自身で開催するコンサートなどで、オリジナルソングを演奏しています。大石さんの歌声を初めて聞いた時、優しさとフレッシュさを感じ、心から音楽を楽しんでいる様子が伝わってきました。

大石さんは昨年3月までの10年間、盲導犬イリーナが共に暮らしていました。無事に役目を終えたイリーナが引退し、ボランティアの方に引き取られましたが、半年後に病気で突然死んでしまいます。大石さんは「とてもショックが大きかった」と話し、いまだに寂しい気持ちを拭えません。

今は盲導犬の申請をせず、少しずつ気持ちを整理しながら、演奏に集中しています。外出時は白状を手に持ち、なんとか一人で行動できていると話していました。


読者モデル早川みずほさんが聞き手に

今回の取材では、前半はココライフ女子部の読者モデル早川みずほさんが、大石さんの音楽活動について話を伺い、後半は大石さんが早川さんに向けて即興ソングを行います。

早川さんは10代の時に病気で足が動かなくなり、車いすユーザーになりました。現在は仕事や子育てに奔走し、即興ソング体験に応募され、大石さんに会えるのを楽しみにしていたとのこと。

互いのお子さんの年代も近いことから一気に打ち解けていました。「高校受験は親の方がハラハラしますよね〜」「そうそう、わかります!」と、子どもの進学について会話が弾みます。

ところで、大石さんは一体どんな学生生活を送られて、音楽活動を続けてきたのでしょうか。これまでの歩みを教えていただきました。


早川:大石さんは5歳からピアノを習い始めたと仰っていましたが、きっかけはあったのですか?

大石:私は静岡県沼津市の出身で、ピアノを始めたのは幼稚園の時です。当時、私は給食が苦手でした。ある日、母が「あやちゃん、今日は給食をしっかり食べたら、いい人に会わせてあげる」と言うので頑張って食べたんです。そして、その日に初対面したのが、私と同じ視覚障がいのあるピアノの先生でした。当時は盲学校の音楽教諭をされていて、優しく教えてもらえるのかと思っていたら、とても厳しい方なのです。私は日々の練習をサボりがちで、音当てクイズが好きな子どもでした。

ですが、大人になって先生に「この子は目が見えなくても、自分の手で食べていけるように」と、熱心に指導してくださったと聞きしました。今思うと、とてもありがたかったですね。

一般の楽譜(上)と点字楽譜(下)音符、指記号が全て一列で書かれている

早川:どうやって楽譜を読めるようになるのですか?

大石:ピアノを弾く時は、点字に訳した楽譜を用意して練習します。左手で鍵盤を弾きながら、右手で点字の譜面を触って音を覚えるという方法です。弾くときは両手が塞がれるので、今でも丸暗記です。

一般の楽譜と比べてみると、点字の楽譜はページ数が桁違いなのがわかります。本来であれば一冊のところ、私の場合は二冊必要です。音大に通っていた頃は、毎日重さ7キロのリュックを背負って、授業に出ていました。

早川:すごいですね、今までに音楽を辞めたいと思ったことはないのですか?

大石:それはないですね。昔からミュージシャンに憧れていましたし、10代のつらい時期もピアノがそばで慰めてくれていた感覚がありました。

中学からは東京に上京して、「友達をたくさん作ろう!」と希望を持って筑波大学付属視覚特別支援学校に入学したのですが、寮生活が合わず、一時は不登校になったことも……。そんな私が唯一心を落ち着かせられたのがピアノを弾いている時でした。

早川:音楽で今後、挑戦したいことはありますか?

大石:今年で50歳になるので人生の節目に、3月13日にタイのプーケットで開催されるミズインパクトワールド2025に出場します。女性起業家たちを中心に行われるのですが、元々は私のメンタルコーチが前回バンコクのコンテストに出場しました。

私はオンラインで見ていて、実際に会場の様子が見えなくても雰囲気や熱気が伝わりました。その際に「次は私が出るかも」と自然と出場するイメージが頭の中に浮かんだのです。

他の出場者たちの様子をSNSで知ると、迷いや焦りが出てきます。その度に「私は自分のペースで頑張ろう」と気持ちを入れ替え、でもまた迷いが起きて……寄せては返す波のようです。

今回、私はプーケットに旅立つ前に大事な仕事があるので、一人で飛行機に乗って出発することになりました。本当は英語をもっと勉強しておくはずが、あまり進んでないですね(笑)

でも、きっとどうにかなると信じています。

早川:好奇心が旺盛で、とても夢がありますね。

大石:いつか国内だけでなく世界ツアーを開催するのが、私の夢なんです。それに先駆けてプーケットから、まず発信していきたいなと。新しい繋がりができるチャンスですから、楽しみたいと思います。

あと、こういったコンテストやイベントは、どうしても障がいや病気のある方はちゅうちょしてしまいがち。私がブルドーザー役になって、平坦でないボコボコした人生の障害物を壊していき、平らで歩きやすい道を作っていけたらいいなと思います。

よかったら、早川さんも一緒にプーケットに行きませんか?

早川:え!?私がですか?いいですね!家族に頼んで、大石さんに付いて行こうかな笑

年代や性別、障がいに関係なく、果敢に挑もうとする大石さんに早川さんも勇気をもらっていました。後半は大石さんが早川さんへ即興ソングを弾き語りします。


素直な気持ちを、歌とメロディーで形にする

大石さんの提供する音楽サービスの一つ、個人セッションで行う即興ソング。早川さんにいくつか質問をしながら、大石さんはテーブルに点字と音声を入力できるブレイルセンスを置き、パチパチとキーボードを入力していきます。

《 ヒアリング内容 》

  • 好きな食べ物
  • 楽しかったこと
  • リラックスタイムはどんな時か
  • 好きな言葉
  • 目の前にもう一人の自分がいたら、なんて声をかけるか

5つの質問に対して、早川さんはトムヤムクンが好きということから始まり、娘さんと出かけた音楽フェスの話題や、学生時代にデスクトップミュージックをやるために上京したこと、お風呂でYouTubeを見ることが楽しいなど話しました。

最後には「もっと自分に自信を持って、いろいろやってみたらいいのではと思います」と自分にメッセージを残しました。

早川さんの気持ちを丁寧に引き出す大石さん。15分ほどの会話を終えると「今のお話を元に音楽を作りますね」と早速ピアノの前に座りました。

曲のジャンルを選べるということで、早川さんは少し考えてから「バラードでお願いします!」とうれしそうな表情を見せました。

では、どんな歌声を聞かせてくださったのか、動画でぜひご覧ください!

《 即興ソングタイム♫  》


《 早川さんの感想 》

私の気持ちを歌に乗せて歌ってくださり、思わず涙ぐみそうになりました。このような形で人を楽しませられるのは、とても素晴らしい技術です。自分の日常が曲になるなんて想像ができなかったので、とても感動し励まされました。興味がある方は、ぜひ体験してほしいです。

これまで大石さんや私も、障がいがありながらキャリアを積み重ね、子育てをしてきました。私自身は「お母さんだから」「子育て中だから」と自分の動きに制限をかけやすい部分があったのですが、そんな気持ちを大石さんに溶かしてもらえたような気がします。

初めてとは思えないほど、楽しい時間を過ごせました。また別の機会にいろんな話をさせてもらえたらうれしいです。


プロフィール

大石亜矢子

静岡県沼津市出身 男女の双子で、未熟児網膜症として誕生する。

武蔵野音楽大学声楽科卒業

ソロによる歌唱の他、ピアノの弾き語りによる演奏活動を行う。

夫であり、全盲弁護士の大胡田誠と共に「全盲夫婦によるトークアンドコンサート」を各地で開催。

H P:http://ayako-ohishi.net/

撮影:鈴木智哉 取材・文:飯塚まりな