友達づくりが最大のバリアフリー! 医療従事者と障がい当事者がともに楽しむAOi

Co-Co Life☆女子部 読者の皆さんの中には「テーマパークに行ってみたいけれど、障がいのある私でも楽しめるのだろうか」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか? 今回紹介するのは、理学療法士や看護師などの医療従事者と障がい当事者がともに楽しむイベント団体AOi(アオイ)です。

最初は軽いノリから始まった

東京ディズニーリゾートや、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどのテーマパークで医療従事者と障がい当事者がともに楽しむイベントを実施しているAOi。

その始まりは、1人の障がい当事者の言葉でした。

『一緒にディズニーに行きませんか?』

片まひの言語聴覚士 松川力也さん(26)は、理学療法士の吾妻勇吹(あづま いぶき)(31)さんにそう声をかけました。松川さんは14歳のときに、脳内出血を発症し、左半身にまひが残っています。

松川力也さん。言語聴覚士で現在は就労移行支援事業所の運営もしています。
吾妻勇吹さん。大阪府内で理学療法士をしています。

SNS上でつながっていた2人ですが、吾妻さんが運営している医療従事者の働き方を啓発するオンラインサロンのメンバーからの紹介もあり、密接につながったそうです。

松川さんの周りには、ディズニーに行きたくても行けない障がい当事者がいました。
彼らは、病気を患ったあとや、障がいを負ったあとに、どこかへ出かけた経験がなく
「自分はもうどこへも出かけられないのではないか」と話していたそうです。

松川さん自身も、発症後に歩くのが大変だったり、荷物を持つのが難しいという理由で、
大好きだった洋服の買い物の買い物に行けないと思っていたときがありました。

一方、吾妻さんが運営しているオンラインサロンには「旅行支援」という障がい者や高齢者の旅行に付き添う事業を行っている医療従事者がいたことから、ほかの医療従事者も誘うことにしました。

こうして、AOi第1回目の企画は15名で東京ディズニーランドへ。

第1回目の東京ディズニーランドの様子

以来、年1〜2回の頻度で東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンで開催されています。

友達だから手伝うだけ

吾妻さんは当初、理学療法士として怪我などのリスクを想定し、準備を進めていました。
しかし、企画が始まると「障がい者の介護や介助をしているという感覚ではなく、一緒にアトラクションに乗る友達だから手伝うだけ」の感覚になったと話します。

「いろいろな話をしていく中で、障がいを負った経緯も気軽に聞けました。普段勤務している病院ではなかなか聞けない話も友達だから聞けました。」

当事者たちがさまざまな経験をしている中で、今こうして笑っていることに人間として厚みを感じ、感銘を受けたそうです。

また、吾妻さんには医療従事者の固定観念を壊したい思いもありました。
普段の「リハビリの先生と患者」という関係ではなく「一緒にテーマパークを楽しむ仲間」だからこそ、必要な介助を行うのです。「友達が『あそこに行きたい』と言えば、段差だろうが、スロープがなかろうが、連れて行きますよね。その時に、友達づくりが最大のバリアフリーだと思ったんです」

松川さんは障がい当事者の観点から「安心感が圧倒的に違う」と話します。AOiでは、事前にアンケートを取り、参加者の病気や障がいの状況を把握します。
また、イベントの回数を重ねることで、サポートを円滑に行うための知見も得てきました。

家族や友人とテーマパークに行った場合、サポートの仕方が分からなくて、
存分に楽しめないこともあるかもしれません。サポート体制が整っているAOiでは安心してテーマパークを楽しめるのです。

行きたいと思った人は連れていく

AOiの唯一のルールは『行きたいと思った人は連れていく』こと。参加する本人の意思を大切にしています。例えば、親御さんが子どもをAOiのイベントに参加させたいと思った場合、子どもを無理矢理連れていくのではなく、参加する本人の気持ちを優先させます。逆に親が参加を心配する場合には、吾妻さんたちが事前にオンラインミーティングなどで説明を行っています。

全国から集まっている参加者は、各自で新幹線やホテルの手配をしています。
通常の旅行支援では、支援者が手配することもあるそうです。しかしAOiでは「一歩踏み出そうとしている人を応援する」側面もあるため、あえて手配などのサポートはしていません。実際にAOiのイベントには一歩踏み出そうとする障がい当事者が多く集まっているのです。

安心して参加できる仕組みづくり

初めての参加でも安心感をもってのぞめるように、事前説明会と事前勉強会が実施されています。説明会と勉強会は、障がい当事者・医療従事者・一般参加者問わず、イベントに参加する人ならどなたでも参加できます。

勉強会では、吾妻さんを中心に運営メンバーの医療従事者や当事者の方から、当日予想される病気やけがの対処方法を確認します。
これにより、医療従事者でない一般の参加者も安心してテーマパークを楽しめるのです。

説明会では、パーク内のバリアフリー状況、パーク公式アプリの使い方、アトラクションごとの移乗方法の説明などがあります。
AOiでは、事前に参加者のグループ分けを行います。実はこのグループ分けにも安心できる仕組みがあります。例えば嚥下障がいのある参加者は、言語聴覚士と同じグループにするなどの配慮をしています。
また、グループ内で、障がい当事者よりも、医療従事者・一般参加者の人数が多くなるように設定しています。

テーマパークのルールとして『アトラクションに乗る際、障がい者1名につき、介助者が1名必要』というものがあります。
このルールに基づいて、グループ分けを行っているため、障がい当事者の申し込みが、医療従事者・一般参加者の申し込みを上回ってしまった場合、当事者枠を締め切ることもあります。そうすることで、アトラクションの移乗などをスムーズに行えるのです。

初めて息子がお土産を買ってきてくれた

AOiでは現在全国に支部に支部を作ろうという動きがあります。AOiに参加したいけれど、飛行機代・ホテル代がかさんでしまうという参加者のために、より気軽に集まれるようにするのが目的です。
その第1弾として、関西支部が2025年4月5日に難波宮跡地でお花見を開催しました。


他にも関東支部や愛知支部を作るそうです。
関東支部では、上野動物園に行く計画を立てています。

松川さんと吾妻さんにイベントで一番印象に残っていることを聞いてみました。
松川さんは、今まで県内にしか行けなかった人がAOiの活動を通じて県外に行くようになったことが印象に残っているそうです。
その方は松川さんの知り合いで、息子さんが出かけるとき、ずっとお母さんが付き添いをしなければいけませんでした。しかし、AOiのイベントで、初めて息子さん1人で旅行に行く経験をしました。今では就職し、1人で県外の出張にも出かけているそうです。

吾妻さんも、高校生で片まひになった男の子のお母さんから「初めて息子からお土産をもらいました」と言われたことが印象に残っているそう。そのお母さんは、いつも息子さんと出かけていたそうで、お土産をもらう経験がなかったのです。

口コミでどんどん広がっていった

以前AOiには『アンバサダー制度』というものがありました。
イベントを開催するごとに、SNSでAOiのイベントの楽しさを伝え、
10人ほど参加者を誘っている人たちがいました。その人たちはAOiのことが大好きで、自然とイベントのことを話していました。

そこで吾妻さんたちは、その人たちを『AOiアンバサダー』とし、お金を払ってインフルエンサーのような活動をしてもらうことに。
具体的には、イベントに参加したときの様子などを、インスタライブなどで配信。
アンバサダーたちの活動のおかげで、最初は15名前後で始まった企画ですが、
日本全国から参加者が集まり、50名から100名単位になりました。

今ではアンバサダー制度を作らなくても、参加者が自然と広がり、みんながアンバサダーのような形になったため、アンバサダー制度は廃止されました。

みんな障がいのことを気にしていない

最後にAOiのこれからの展望について聞いてみました。
松川さんは「障がいのある人達が旅行や外出をするようになる初めのきっかけコミュニティ」にしていきたいと話します。

吾妻さんは「1年に1回でもいいので継続させていきたい」と展望を語ってくれました。
定期的にみんなが集まれる場所を提出していきたいそうです。

外に出るのをためらっている読者に向けて、お2人からエールをいただきました。
松川さんは「素直にどこかへ行きたいという気持ちを忘れずにいてほしい」と話します。「行きたいという気持ちを周囲の人々に伝えてみてください。もし、周りに誰もいない場合は、僕たちAOiに伝えてみてください」とメッセージをくれました。


吾妻さんからは「どんな障がいがあっても、とりあえず外に出てみましょう。周りの人たちは思っているよりも障がいについて気にしていません」と心強いコメントを頂きました。続けて「障がいがあると、『あれもできない・これもできない』と自分にレッテルを貼ってしまう人もいるでしょう。しかしAOiでは、できるようにするにはどうすれば良いかを考えています。」とのこと。

参加者から、いつもは「すみません」をひんぱんに言っていたけれど、
AOiに参加したら「ありがとう」という言葉に変わったという声もあったそうです。

また、障がい当事者だけでなく、医療従事者や一般の参加者にもテーマパークのアトラクションに並ばずに乗れるメリットを受けられるので、お互いに「ありがとう」という言葉が飛び交うのです。

私も、2025年1月に参加してきました。それまでは、家族としかテーマパークに行ったことがなかったので、新鮮な気持ちでテーマパークを楽しめました。
AOiの参加者は明るい性格の方が多く、初めての参加でも直ぐに場に馴染むことができました。

私が参加したときの様子

次回のイベントは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで行われる予定です。

2025年1月に行われた東京ディズニーシーでのイベントの様子

詳しくは、公式HP・インスタグラムをご確認ください。
公式HP:https://aoi.family/
インスタグラム:https://www.instagram.com/aoi_tsunagari_official/?locale=ja_JP

写真:阿部謙一郎・タケダトオル 文:榎本佑紀