【ふたりのあいだ】夫婦のストーリー  難病ALSの夫と支える妻の願い「息子とともに生きたい」 

進行性の難病ALSを患う古内孝行さんと妻の一美(ひとみ)さん。二人の間には一人息子で、知的障がいのある奏多くんがいます。 

夫婦の会話はいつも奏多くんの話題が中心。これからも3人で暮らし続けたいと思う一方、病状の進行度合いによっては、生活の形を見直さなくてはなりません。 

古内さんの支えは、若い頃から大好きだった音楽。一時はプロを目指して歌っていたことも。ALS発症後に一美さんを通じて出会ったのは、介護福祉士でシンガーの石川祐輝さんです。 

「ALSでYoutubeをやったらバズるよ!」と石川さんの誘いに古内さんの心は動かされ、音楽ユニット「たか&ゆうき」を結成します。 

音楽活動を始めてから今日まで古内さんの周りにはたくさんの人たちが関わってきました。 

今回は古内さん夫婦の思いをインタビューします。 

出会いは西武デパートのレストラン 

古内さんと一美さんの出会いは20年前。埼玉県所沢市にある西武デパートのレストラン街で働いていました。 

初めは休憩室で挨拶をする程度でしたが、飲み会を通して距離が縮まり、二人で過ごす時間が多くなっていきました。 

交際から7年を経て、結婚。 

息子の奏多くんが生まれてからは、これまで以上に夫婦で育児や仕事に励みました。 

ですが、奏多くんの成長は他の子どもと比べると遅く、知的障がいがあることが判明。それでも「息子には明るく楽しい生活を送ってほしい」と日々の暮らしを大切に過ごしました。 

しかし、奏多くんが小学校に通うようになると、古内さんの身体に異変が起きていたのです。 

「パスタの麺が持ち上げられない」ALSを発症 

古内さんは発症前、飲食チェーン店の店長でした。ある日、茹でたパスタが持ち上げられず、手にしたグラスを落としてしまうなど手に力が入らなくなります。 

2019年6月、検査結果を見た医師からALS(筋萎縮性側索硬化症)と告げられます。 

「担当医は初め“ALS”という単語を使いませんでした。病院帰りに妻に電話をして『筋萎縮性側索硬化症なんだって〜』と話すほど、病気のことを何も知らなかったんです」と振り返る古内さん。 

しかし、ネットで調べるうちにALSには治療法がなく、進行性であること。いずれは気管切開をする可能性があるなど思ってもみない現実を知りました。 

まず浮かんだのは経済的な不安。仕事ができなくなることで収入が途絶える不安がよぎりました。 

「妻にはこんな状況になって申し訳ないという気持ちで、離婚の選択肢もあるかもと思いました」と当時の心境を語ります。 

ですが、悩む夫の姿を見た一美さんは「今すぐ死ぬわけとは限らないから!」と前向きに切り替えたといいます。 

「正直なことを言えば、障がいのある息子がいるし、夫が動けなくなるショックは大きかったです。でも深刻に考えすぎても仕方ないし、なんとかするしかないと思って」と話す一美さん。 

結婚前から、どちらかといえば古内さんの方がポジティブで、一美さんは落ち込みやすいタイプだったとか。しかし、ALSを発症をきっかけにいつ間にか立場は入れ替わり、今では家族の選択を引き受けるのは一美さんになっていました。 

葛藤する日々、現れた音楽の救世主 

発症後、仕事を辞めて家に引きこもっていた古内さん。身体が動かなくなる辛さから、思わず強い口調で奏多くんを叱る日が増えてしまい、家族仲が険悪に…。 

家の中で倒れると、起き上がれずに仰向けになったまま一美さんの帰宅を待つこともありました。 

一美さんは、一緒の職場で働いている介護福祉士の石川さんに相談します。 

石川さんは地域密着型デイサービスの職員で、古内さんと同世代。若い頃から音楽一筋で、ギターの弾き語りで、歌手活動を行っています。 

音楽好き同士、共通の話題が多いことから二人は意気投合。 古内さんの考えたメロディーに石川さんが音を付け、曲作りを行うようになりました。こうして「一緒に音楽ユニットをやっていこう」とYouTubeの動画発信を中心に活動が始まったのです。 

また、古内さんはデイサービスの通所を利用し、石川さんが入浴介助を担当しています。 

さらに一美さんが安全に車いすでの移乗ができるよう、石川さんが練習台になるなど、夫婦の生活をサポートをしました。 

石川さんは「彼といると楽しいですし、人前で歌うことでALSを知ってもらうチャンスがあります。大人だけでなく、子どもにも関心を持ってもらうことが大事だと思います」と話していました。 

2022年、音楽ユニット「たか&ゆうき」を結成して間もなく、二人は所沢市文化センターMUSEでコンサート「All Love Shings 〜ALSになっても歌いたい〜」を開催するなどアーティストの仲間を呼び、大きなステージを作り上げました。 

以降さまざまなイベントに出演し、24年には旧渋谷公会堂でALS患者であり実業家の武藤将胤氏によるALS啓発音楽フェス「MOVE FES.2024」にゲストでステージに立つなど、その勢いは止まりません。 

若い頃に夢中になった「音楽」という生きがいを、再び取り戻したことに古内さんは喜びを感じていました。 

妻が「大変」と感じる時 

一方、妻側から介護や子育ての一端を担う中で課題を聞くと、意外にも一美さんからすぐに返事は返ってきませんでした。 

その様子から古内さんが「一般の家庭から見たら大変なはずだけど、妻はこの生活にもう“まひ”しているから!」と笑い、夫婦で冗談を言い合っていました。 

実は取材一ヶ月前、古内さんは風邪を引いていました。私たちとは違い、自分で咳ができない分、15分に一度は気管に溜まった痰を吸引します。身体に大きな負担がかかり、医療的ケアが欠かせません。 

現在、週3日は重度訪問介護員が入り、その一人が石川さんです。古内さんの介護を引き受け、デイサービスとは別に重度訪問介護で働いています。 

しかし残りの4日は、一美さんがひたすら徹夜で介護をしなくてはなりません。また、奏多くんにも持病があるため、どちらの症状も見逃せないのです。 

「夫も息子も一人にできない状態の時は、私も家から出られなくなります。夫が寝ている間に大急ぎで息子の病院に行き、買い物もゆっくりできません」と話します。 

そんな一美さんの息抜きはママ友との月一ランチ。古内さんが体調がいい日にイベント出演で出かけると、自分の時間で動くことができると話していました。 

いざというときは自分で決断を 

古内さんは地域の保健所で開催されるALSの患者会に出席しています。4つの市から患者やその家族を中心に集まり、雑談や互いの近況報告をする貴重なひとときです。 

「今後はもっと患者会を充実させて、僕の場合は歌を通して、自分たちのような人たちがいることを知ってもらいたい」と古内さんは思いを述べました。 

治療法が見つからないALSについて、自分の経験を話すことが一番人に伝わり、これまでの症状や生活の工夫や今後の患者の力になっていくと古内さんは語りました。 

奏多くんは中学一年生になり、少しずつ成長しています。 

「できるだけ長く、家族3人で一緒に暮らしたい」とささやかな願いがある一方、今後の進行によっては24時間介護士が介入する可能性もあります。家族内のプライバシーがどこまで守れるかも、現実的な課題です。 

それでも一美さんは「いざというときは夫の気持ちを尊重するので、大事なことは自分で決断してほしいと伝えています」とそばに居続ける覚悟を感じました。 

夫婦生活も長くなり、特別なことはないけれど家族を大事に思う気持ちはこれからも変わりません。 

古内さん家族のあいだにはとても暖かい空気が流れていました。 


編集後記 

私が古内さんや石川さんと関わって3年が経ちました。普段は別の媒体で連載を書かせてもらい、ALS患者の生き方に触れています。 

古内さんの素晴らしいところは、どんな時も穏やかであること。 

「みんな僕に会うと、自分の話を聞いてくれると思うみたい」と言うほど、古内さんの周りにはいつも人が集まります。 

今後もその声や笑顔が見られるよう、メディアを通じて応援し続けたいと思います。 


音楽ユニット「たか&ゆうき」プロフィール 

ALS当事者のたかと介護士のゆうきによる音楽ユニット。 
デイサービスで出会い、利用者と介護士という関係を越えて音楽活動を続けている。 
障がいのある人が表現者として社会とつながる在り方を、音楽を通して発信している。 

たか&ゆうきさんのYouTubeはこちら

撮影:渡邊誠 取材・執筆:飯塚まりな