みらい人#10  ダンスがつなぐ姉妹の絆 〜障がいのある子どもたちと新たな挑戦〜 エンターテイナー・吉川莉奈さん

「誰もが笑顔で過ごせる未来をつくる」ため、アクティブに活動を続ける人を紹介するインタビューシリーズ「みらい人(みらいびと)」。第10回は一般社団法人フェアリーエンターテイメントの代表理事吉川莉奈さん。2019年から「福祉×エンターテイメント」テーマに、障がいの有無に関係なく、楽しく踊れるダンスレッスンを開催。吉川さん自身、二人の妹には障がいがあり、ダンスを通して家族の絆が深まりました。

福祉✖️エンターテイメントで毎日を楽しく!

冬の寒空の下、東京都小平市の中央公民館ではダンスレッスンが行われました。ダンスチーム「フェアリー」は小学校1年生〜20代の青少年で結成し、現在は10数名で活動しています。

取材当日、レッスン会場の扉を開けると吉川さんが温かく迎えてくださいました。現在は公民館でのレッスンを始め、外出が難しい障がいのある子どもに向けた訪問型のダンスレッスンを行い、福祉施設や病院、学校などを訪問しダンスの魅力を伝えています。

元テーマパークダンサーだけあって妖精のような軽い身のこなし、可愛らしい表情とキレのいい話し方が印象的でした。

レッスンの時間になり子どもたちが会場に集合。吉川さんの妹さんも車いすで参加します。「さぁ、ストレッチを始めるよー!」と吉川さんの明るい声が響き、子どもたちが鏡の前に立ちました。自分の姿を見ながらゆっくりウォーミングアップ。しなやかに手を伸ばす子、服の裾が気になって触る子、後ろを振り返る子などさまざまな姿が見えました。

ストレッチ後はフェアリーのオリジナル曲でダンスを踊ります。器用に回転しながら立ち位置が変わる子もいましたが、同じ場所で手を上げたり下げたりしている子もいます。同じ曲で一緒に踊り、笑顔になって表現を楽しむ。見ている人も幸せになれるようなダンスがフェアリーの原点です。

参加する子どものお母さんに話を聞くことができました。

知的障がいがある娘さんはダンスが大好き。彼女にはお姉ちゃんがいますが、お姉ちゃんは妹が周りからどう見られるのか気にしていました。二人の気持ちをくめるダンス教室はなかなか見つかりません。そんな時、偶然フェアリーを紹介され体験に行ったとのこと。

「フェアリーのメンバーはいつも優しくて、姉妹で安心して通える場所を見つけられてよかったです」とお母さんは喜んでいました。

障がいのあるきょうだいを持つ子どもの心境、吉川さんにはとても理解できます。過去には「妹たちのことを話したくない」と思う時期があったからです。ですが、フェアリーを立ち上げてから気持ちに変化が起きました。

「ダンスレッスンを始めてから、障がいのある妹たちのことを好きになれたんです。気付けばフェアリーで私自身が救われていました。今では家族の会話に自然と妹がいて、話ができなくても通じ合う気がしています」と穏やかに語りました。

「妹のため」、「障がいのある子どもたちのため」そう思っていたけれど一番は自分のためだったのかもしれない。吉川さんに、これまでとは違う感情が湧いてきたのです。姉妹として大事に思えるようになったことで、未来に可能性が広がっていることに気付きました。

エンターテイメントの世界で生きていく

吉川さん現在4人姉妹。小学校一年生の時に、三つ子の妹たちが誕生しました。ですが喜びも束の間、一人は生後4日で亡くなり、生存した二人の妹は重度障がいがありました。

その二人の妹も、一人は脳性まひで病院の施設に入り、もう一人の妹は目が見えず、いくつかの疾患を持ちながら自宅で暮らし、さらに14歳年が離れた、現在中学3年生になる健常者の妹がいます。

当時の様子を聞くと、吉川さんは病院の面会室で母親を待っていた記憶を鮮明に覚えていると話していました。妹たちの介護が中心の生活、我慢が多かった子ども時代。それでも年に数回家族と出かけるディズニーランドが何よりの楽しみでした。

「テーマパークの中では、誰しもが平等。パレードを見て笑顔になり『また明日からも頑張ろう』と活力をもらえて、子どもながらにエンターテイメントの素晴らしさを実感しました」。

進路を決める際、家族からは「好きなことをやってほしい」と応援してもらえたことでクラーク記念国際高等学校 東京キャンパス パフォーマンスコースに進学します。

ダンサーになるための厳しい練習が始まり、家庭環境での悩みが重なるなどつらい時期を送ったこともありました。ですが、ダンスから離れることはなく「私の居場所はやはりここだ」と確信します。

さらに専門学校に進み、オーディションを受けて念願だったテーマパークダンサーになりました。遠方で一人暮らしをしながら深夜早朝練習に励み、昼夜逆転生活を送ることも。ですがお客さんの前ではとびきりの笑顔でパフォーマンスをしました。

「踊っていると、パフォーマンスを見ているお客さんたちの笑顔がキラキラ輝いているのがわかります。私たちダンサーがそれぞれキャラクターの一員になりきり、楽しい空間を作り上げる喜びがありました」。

子どもたちにたくさんのチャンスを

数年のダンサー生活を経て、新たな方向性を見つけるきっかけになったのは母親の言葉でした。「母は障がいの有無に関係なく、家とは別にみんなで楽しく過ごせる場所があってほしい」。長年、娘の介護と子育てに奔走した母親の切なる思いに吉川さんは決意します。

「妹たちのために、ダンス教室を開こう」。

改めて自分の生い立ちと向き合い、エンターテイメントで培った経験を福祉の世界で生かすことに使命感を感じました。

早速クラウドファンディングを行い、福祉ビジネスについて意思表明し、資金が集まると法人を立ち上げました。最も大事なことは「福祉=ボランティア」ではなく、ビジネスとして持続可能にすること。日々の訪問型ダンスレッスンは小平市との業務提携を行い、2024年から障害者支援課の一環で導入されました。

さらに、現在は母校の実習授業で講師を担当。保育・福祉コースで学ぶ高校生たちが実習先で行うレクリエーションの企画や方法について指導を行っています。

「高校生の彼らは保育や介護職員不足、少子高齢化の日本でとても貴重な存在です。10代のうちから多様な人々の暮らしについて考えられる視点を持ってほしい」と次世代の人材を育成しています。

また、同校のパフォーマンスコースの生徒たちと、フェアリーの子どもたちで、一緒にBリーグ(バスケ)・ハーフタイムショーに出演する機会にも恵まれました。華やかな衣装を着て踊る、純粋な子どもたちの表情が輝きます。

今後の予定は、3月13日、東京ガーデンシアターでは日本のプロダンサーたちが集まるDリーグに出演予定。再び、フェアリーの子どもたちと高校生たちが集結し、出場するダンサーたちの応援で「スーパーマリオ」をテーマに、ダンスとラップでコミカルに踊ります。会場を盛り上げるため猛練習に励んでいると意気込んでいました。

フェアリーの子どもたちに、表舞台へ立つチャンスを与える吉川さん。これからも妖精のように飛び回りながら、障がいのある子どもたちにダンスの楽しさを届けていくのでしょう。

彼女の見るエンターテインメントの地平線の先にどんな景色が広がっているのか。ココライフ女子部でも今後の展開を追っていきたいと思います。


一般社団法人フェアリーエンターテイメント

代表理事 吉川莉奈

1995年生まれ。エンターテイナー。元テーマパークダンサーの経験を活かし、一般社団法人フェアリーエンターテイメントを立ち上げる。東京2020パラリンピック閉会式など国際イベントにも多数出演。「福祉×エンターテイメント」をテーマに社会問題と向き合う。

公式HP:https://fairyentertainment.or.jp/

写真:鈴木智哉  取材・文:飯塚まりな