「誰もが笑顔で過ごせる未来をつくる」ため、アクティブに活動を続ける人を紹介するインタビューシリーズ「みらい人(みらいびと)」。第9回はアパレル会社を自ら起業し、障がいに合わせたオシャレな服がそろう販売サイト構築を目指す牧野友季さんに、活動の背景とその想いを伺いました。
「できない」のは努力不足ではない、でも頑張ってもできるようになるわけじゃない
体に力が入りにくく、電動車いすで生活している牧野さん。さらに自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠陥多動性障がい(ADHD)、学習障がい(文字の読み書きが困難)、感覚過敏などの障がいがあります。実は、発達障がいの診断を初めて受けたのは、高校生2年生の時でした。
子どものころから人と違うと感じ、IQ検査なども受けたものの、問題は見当たらず。無理をしながら学校生活を送っていた牧野さんですが、高校生になって一層「周囲と同じようにできない」ということに悩むようになり、不登校に。それから両親の勧めで改めて検査を受け、初めて発達障がいの診断を受けました。
「できないことの理由が障がいだったとわかった時、『あなたの努力不足でできないわけではないですよ』って言ってもらえて安心しました。
でも、逆に言うと、頑張ればできると思っていたのに、頑張ったからってできるようになるわけじゃない、困っていることがなくなるわけじゃないんだと思って、複雑な気持ちもありましたね」
それから高卒認定を受け、一度は大学に行った牧野さんですが、やはり周囲との違いを受け入れられず、1年生の前期で退学。つらい思いを抱えていました。

ところが、その後に通った夜間学校時代での出来事が、障がいに対する複雑な思いを受け入れられるきっかけとなりました。
「夜間学校には、複雑な家庭で育ったとか、同じ年だけどすでに子どもがいるとか、いろいろな人がいました。だから私の障がいのこともナチュラルに受け入れてくれたんです。
でも、みんな心のどこかで、人と同じになりたいけど、なれない自分を受け入れて、どう生きていくか、ということを考えている。それを知ってから、人と違うことを受け入れる視点に気づけましたね」
■自分の働く場所は自分で生み出すしかない!大学生でアパレル系の会社を起業
夜間学校を出て自立支援を経てすぐ、地元のA型支援事業所で働いた牧野さん。しかし、福祉の現実を目の当たりにし、改めて大学進学を考えるようになりました。
「福祉って助けてくれる場所だと思ってたんですけど、差別的な考えを押し付けられたり、理不尽なことで怒られたり、すごく傷ついたんです。あと、ショートステイ施設の環境も、突然入浴の介助が男性になって、それでも嫌と言えずに悩みを抱えていました。
でもやはり耐えられなくなって、もっと広い世界を知りたいと思ったんです。だけど、一般企業で働くのは厳しくて。だから『もう、自分の働く場所は自分で生み出すしかない!』という考えに変わりました」
それからすぐに起業について学べる大学を検索し、上京。しかし、コロナ禍に突入したことから、1年間マクドナルドのアルバイトで学費と生活費を稼ぐことに。その行動力もあり、2022年、無事に大学生となりました。
それから3年後、在学中に大学のプログラムで、実際に起業を実現。そのプログラムの選考プレゼンでかけられた一言が、牧野さんの価値観を大きく変えたと言います。

「プログラム採用のためのプレゼンで、想いと理想の社会についての話をしたんです。その質疑応答で、1人のメンターさんに『牧野さんは今までどうしたら我慢できるかを考えて生きてきたんじゃない?これからはどうしたら楽しめるかを考えて生きていってもいいんじゃないかと思ったけどね』と言われたんです。
図星でした。結局大学に入っても『どう頑張ったらできるだろう』って考えるのは変わっていなくて、これからずっとこうして生きていくのかな、と悩んでいたから。でも今までそんなこと言ってくれた人はいなかったから、驚きもあったけど、うれしくて涙が出ました」
今まで我慢してきたことを受け止め、さらに先を照らしてくれたことで、新しい一歩を踏み出す勇気と、起業のビジョンのヒントが生まれたのかもしれません。
■着たい服を選べない…が当たり前。障がい者の選択肢を増やしたい
牧野さんが立ち上げたのは、障がいに合わせた服を選べる販売サイトを作る会社。そのきっかけは、着たいものが着られないという現実を知ったこと、と言います。

「大学生になって、みんながかわいい服を着ているのを見て、オシャレに目覚めました(笑)。それでワンピースを買おうと洋服屋さんに行ったら、背中側にチャックとかリボンとか、車いすだと着るのが難しいものばかりで。サイズとか値段とかじゃなくて、そもそも着られるか、着せてもらいやすいかで選ばないとだから、全然選択肢がないんです。
その時に、日常の中で好きな物を食べたり着たりできないって、すごくつらいことだし、健常者と障がい者を大きく分けることの1つだなと思ったんです。でも私にとってそれが当たり前になっているんですよね。もう限られたものの中から選ぶのではなく、選択肢を増やす何かがしたい、というところから、『自己実現をあきらめない世界を実現する』をビジョンに掲げ、株式会社StyleCraftを立ち上げました」
困りごとは無限に出てくる、と言う牧野さん。今まで当たり前だった困りごとを、アイデアに変えていると、やりたいことも無限に出てくるのだとか。
現在は、さまざまなアパレルブランドの服を、自分の障がいに合わせてカスタマイズした服が買える、ファッションサイトを作る開発を進めているのだそう。福祉に関する専門的な知識がなくても、カスタマイズに対応した洋服を作ることができるシステムの構築などにも挑戦したいと考えています。
■車いす用レインコートと入浴介助用エプロン…日常の困りごとから商品を開発
さらに、大学の授業の一環で、水泳用品のメーカーであるフットマーク株式会社にインターンとして参加。授業が終了した後も、個人で企画に携わっています。
現在進めているのが、入浴介助をされる人のためのエプロンと、車いす用のレインウェアです。(実は昨年、商品説明のために訪れた国際福祉機器展でCo-CoLife☆女子部スタッフと偶然遭遇。その様子はこちらでご覧いただけます )
「最初に困りごとをたくさん書き出して、10個提出しました。その中から、水泳水着のメーカーとしてできそうなものとして、レインコートと入浴エプロンが選ばれたんです。
雨が降ると、車いすでお出かけするのって大変なんです。自分でレインコート着られないと、着せる人も濡れるし、そもそもあまりオシャレなものがない。スマホも使えなくて不便なんですよ。車いすユーザーが雨の日の外出もワクワクするようなレインコートを作ろうと思いました。そうしたら、周りも着せやすいし、レインコートの着脱が負担になって雨の日の外出をあきらめることが減るかもしれないですし。
入浴エプロンは、作業所時代の異性介助の経験が元になっています。入浴の時って、介助を受ける方は全裸なんですよね。それは相手が同性であれ異性であれ、本来見せたくないし、相手もあんまり見たくないと思うんです。でも嫌なんて言えない現実があったので、介助される人が着たまま入浴できるエプロンを作ろうと思いました」

車いす用レインコートは、シンプルだけどちょっぴりこなれたバイカラーを採用。スマホが見られるよう、手元に透明の窓がついています。フードの長さも調節でき、裾にはストラップもあるので強い風にも対応できます。
また、入浴エプロンは上からスポッとかぶせるだけで簡単に着脱が可能。脇の下の隙間から手が入れられ、素肌を隠したまま洗うことができます。素材は濡れても冷たくならないので、寒い思いもせずに介助が受けられます。
結局ほとんど特殊なことはしていない、と言う牧野さん。困りごとを解決する発明とは、実は今あるものにちょっぴり工夫をプラスする発想が大切なのかもしれません。
■「誰かのロールモデルに」本人がどう生きたいかをフォーカスできる世の中にしたい
これから牧野さんが目指す目標は、会社のビジョンにも掲げている「自己実現をあきらめない世界を実現」すること。

「個人的な思いでは、ロールモデルがいなくて寂しかったんです。発達障がいも周りにいなくて心細かった。同じように悩んでいる人はいるはずなのに、出会えなくて、どう生きたらいいのかわかりませんでした。
だから、障がいがあったらこの道、という固定概念じゃなくて、その本人がどう生きていきたいかをもっとフォーカスできる世の中にしたいです。やはり、やりたいことを『やりたい』っていえないのって一番寂しいと思うんです。私自身が自己実現しながら生きて、少しでも誰かのロールモデルになれたらいいなと思います」
牧野 友季(まきの・ゆき)さん
自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥多動性障がい(ADHD)、学習障がい(文字の読み書きが困難)、感覚過敏。
宮崎県出身の30歳。現在大学3年生。高校認定を受け大学に通うも中退し、夜間学校に入学。卒業後、A型支援事業所の勤務を経て、マクドナルドでアルバイトを経験し、現在の大学に入学。在学中に株式会社StyleCraftを起業。さらに、フットマーク株式会社にインターンとして参加。商品開発に従事する。現在は大学卒業に向けて学業に勤しみつつ、自社のECサイト構築実現に向けて活動中。行動の原動力は、「推しの存在」。
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取材協力:IRODORI cafe
「だれでも何度でもチャレンジができる場所」をコンセプトに、東京・浅草の障がい者施設「浅草みらいど」内にあるカフェ。「就労継続支援B型ルーツ」が運営しています。素材や製造にこだわった焼き菓子や、1杯1杯丁寧に淹れる「カフェ・バッハ」のコーヒーが地元で人気を博しています。
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写真:鈴木智哉 動画:扇 強太 取材・編集:関 由佳