みらい人#12「誰もが誰かのヒーローになれる」当事者自らが道を切り開き、社会に変革を

「誰もが笑顔で過ごせる未来をつくる」ため、アクティブに活動を続ける人を紹介するインタビューシリーズ「みらい人(みらいびと)」。第12回はプロコーチによるコーチングで、働くためのマインドセットをサポートする、D-Biz Collegeを運営する株式会社EiUの代表取締役・渡邊 佑さんに、サービス立ち上げに至るまでの背景と、その思いを伺いました。

自主性を引き出すことで自然に活性化される「コーチングの力」

渡邊さんがコーチングと出合ったのは、大学を出てすぐに入社した、京セラグループのコンサルティング会社にいるころ。「日本を元気にしたい」という思いから、“経営の神様”と称される稲盛和夫さんの経営手法に共感し、中小企業へのコンサルティング業務に従事していた渡邊さんは、さらなるアプローチとして、コーチングを知りました。

自分で導くセルフコーチングや、他者向けのコーチングのスキルを学んで、自身もクライアントもものすごく変わった、と渡邊さんは言います。

「『こうしましょう』とこちらから提案するティーチングに対して、コーチングは『皆さんはどうしたいんですか』というスタンス。自分たちの会社を自分たちで良くしていきましょう、という考え方がベースになるので、自然と活性化され、たくさんの企業さんが過去最高益を出すようになったんです。やはり、強制するのではなく、自主性を引き出すのが大事だということに気づきました」。

無意識に抜けていた「障がい者に対する意識」

稲盛さんの経営手法とコーチングを合わせた方法で『世界中の人と組織のウェルビーイングを実現しよう』そして『笑顔溢れる世界を創造しよう』という理念を掲げて、2016年に独立。コンサルティングやコーチング、研修講師などをおこなっていました。その時に出会った、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞を選出している学会の会長・坂本光司さんに強い感銘を受けたのだとか。

「クライアントさんが審査員特別賞を受賞し、一緒に本を出すことになったことから、坂本先生の講演を拝聴する機会がありました。人を大切にするという考え方がとても素晴らしいなと感銘を受け、それから坂本先生の塾に通うようになったんです。そこで出会った企業の方々は、みな本当に人を大切にされているんですよ。社員だけでなく、その家族や取引先、お客様を大切にしている。そして、坂本先生の原理原則には、地域の障がい者や高齢者も大切にしなさい、という考えがあるので、障害者雇用に力を入れている会社さんとの出会いもとても多かったですね」。

その一つである、警備会社の社長さんのエピソードは、障がい者へ目を向けるようになったきっかけになったと渡邊さんは言います。

「その社長さんは、行政と長く交渉をして障がい者を雇用できるよう動いた方なんです。その方が、ある時『働いている障がい者と働いていない障がい者では寿命が違う。必要とされているから長く生きられる』という話を聞いて、社会は責任をもって受け入れる必要があると気づき、雇用率を上げようと決めたんだそうです。実際、その会社はたくさんの精神障がいの方を雇用していて、おそらく雇用率は50~60%くらいだと思います。

やはり、障がいがある方が生まれるのって誰のせいでもなくて、いつどこで誰が障がいを負うことになるかわからないですよね。だからこそ、等しく社会が責任をもって受け入れていく必要がある。そんな話を聞いて、自分が独立する時に『世界中の人と組織のウェルビーイングを実現しよう』という理念を掲げてコーチングをしていたけれど、世界中って言いながら、車いすの人や白杖を持っている人も見えていたはずなのに、頭の中からスポッと抜けていた、と気づいたんですよね。それで、自分が掲げていることと、やっていることの違いを反省し、障がいや難病によって生きづらさを抱えている方たちに何かできることはないかな、と考え始めました」。

障がい者は“弱者”ではない!強みにフォーカスすれば誰もが役に立てる

そのころ、時代はコロナ禍に突入。当時、渡邊さんはオンラインでコーチの養成講座を始めていたことから、障がいや難病のある方には、無償で講座を提供することを思いつきました。

「社会貢献とともに、コーチとして成長していく方って、しっかり自分の人生と向き合っている傾向があるので、否応なしに自分と向き合う必要がある障がい者の方々は、コーチに向いているんじゃないかなと思ったんです」。

それから縁があり、筋ジストロフィーを抱え、現在インフルエンサーとしてメディアでも活躍している小澤綾子さんが受講することに。小澤さんとの出会いも、渡邊さんの障がい者に対する印象が大きく変わったきっかけになったと言います。

「それまでの私には、まだ障がい者に対して『社会的弱者』という感覚があったんです。でも小澤さんのアクティブな姿を目の当たりにして、全く“弱者”ではないな、と思いました。その時に、強みに障がいは関係ないんだと気づいたんです。弱点にフォーカスするから“弱者”になるんです。例えば、私の弱点が『部屋が汚い』ことだとしたら、他にどんな強みがあっても、ただの部屋が汚いダメな奴になっちゃう、ということですよね。つまり、弱みにフォーカスしたら、誰でも“弱者”になってしまうんです。

逆に、強みにフォーカスできる生き方ができればイキイキするし、周りの役にも立てるんですよ」。

片方の面からしか見ていなかった、と気づいた渡邊さんは、障がいがあっても、もっと強みを発揮できる可能性を感じたそう。

さらに、パワフルな小澤さんによって、他の受講生もどんどん元気になっていく様子にも気づいたと言います。

「障がいがありながら頑張っている方を見て、自分も頑張ろうと思える流れはあったと思います。良いか悪いかという問題ではなく、そういったマイノリティ性を活かした作用による訴求力って、私は障がいのある方々の強みだと思っています。これを活かしたらもっといろいろなことができますよね」。

講座の期を重ねていくうちに、この渡邊さんの思いは確信に変わっていきました。

野茂英雄のような前例を変えるロールモデルを生み出して、社会を変えていく

さらに、Co-Co Life☆女子部ではおなじみの早川みずほさんも、4期の受講生として参加。現在、仕事をしながらコーチとしても活躍しています。

早川さんが抱えていた悩みには、当時の会社で他の社員とのコミュニケーションがなく、仕事のやりがいが感じられない、ということでした。話を聞いた渡邊さんは「要するに、法定雇用率の問題だったんです。社員同士、どのような雇用形態であれ、仲間のはず。やはり人は頼られたり、誰かの役に立つからうれしかったりして、やりがいにつながるんですよね。それなのに、数字を満たすために、ただただ形骸化された雇用が生まれてしまっていた」ということに気づきました。

雇用されたものの「何もしなくていいから」と言われた、といった声もあり、衝撃を覚えた渡邊さん。さらに、障がい者の就労支援の仕組みが「就職がゴールになっている」ということにも気づいたそう。

「健常者が就職した時は、『これでゴール』とは思わないですよね。その先に自己実現して、役に立っていくことが大事なんです。でも企業も家族も『雇われればいい』というスタンスです。

人間って、ゴール達成まではエネルギーを発揮しますが、達成したら燃え尽き症候群でその先の力が出てこないんですよ。ゴールのセッティングは常に先にあるんです。でも、障がい者が就職した後の社会的な補助とか手段ってないんですよね。これは社会の認識を変えなければいけないと思いました」。

そんな時に思い浮かんだのが、メジャーリーグ選手の野茂英雄さんの存在でした。

「今、大谷翔平がメジャーで活躍できるのは、野茂英雄がいたからだと思うんです。彼が日本からメジャーリーグに行った時の世間は、日本人なんて活躍できない、という感覚だったんですよ。でも実際トルネード投法で活躍したことで『日本人でも活躍できるじゃん!』という認識に変わりましたよね。それで次の選手にどんどんつながっていった。

つまり、障がいや難病があっても活躍しているロールモデル的存在の人をたくさん作れば、社会は変わると思うんです。だから、就職したその先をよりアクティブに活躍できる人を排出していく場所を作っていこうと考えました。吉田松陰の『松下村塾』みたいに、自分で自分の生きやすさを勝ち得る力を持つ人がどんどん増えて、もう明治維新みたいに政治家とかビジネスとかで活躍して日本を変えていく、視座の高い人が出てくるスクールにしたい。そこに私の野心があります」。

その想いから、障がい者向けキャリアスクール『D-Biz College』を開設。プロコーチによるコーチングや受講生同士のコミュニティを通した交流ができ、自己肯定感やポジティブ度を上げるためのマインドをセット。自信がない方や自己肯定感の低い人ほど、元気になっていく、と渡邊さんは言います。

「楽しそうな大人がいることで、子どもたちが社会に対して明るい未来を描けると思いますし、それと同じ考え方で、子どもや若い時に障がいを負った方が、楽しく生きる障がい者を見て、未来に期待を持てますよね。

誰もが誰かのヒーローになれる。それが結果的に、私がずっと目指している『日本を元気にする』につながっていくと考えています」。

今後は、ヒーローの連鎖を広めるべく、発信にも力を入れていきたい、と言う渡邊さん。3月30日には、障がい当事者のスピーチコンテスト「HERO’S STORY」が行われるのだとか。現地だけでなく、オンライン配信も実施予定。ヒーローたちの生の声を聞いて、次のヒーローを目指してみてはいかがでしょうか。

お申込みはこちら
https://heros-story2025.peatix.com

D-Biz College
https://d-biz-college.jp

<プロフィール>

渡邊 佑(わたなべ・ゆう)さん

早稲田大学を卒業後、京セラグループのコンサルティング会社に入社。2015年3月MBA(経営管理修士)を取得。2016年に『Coaching 4U』を設立。個人・組織向けのパフォーマンス向上を目的としたコーチングソリューションの提供や組織変革コンサルティングに従事。2023年に株式会社EiUを設立し、ビジネススクール&コミュニティ『D-Biz College』を立ち上げ。就労障がい者のキャリア支援をおこなう。