
「困っていることがあったら言ってくださいね」――障がいのある人が、普段から何気なくかけられる言葉。でも、実際には言い出せないことが多い現実があります。
そこで今回は、事前に「合理的配慮」に関するアンケートを実施しました。合理的配慮とは、障がいのある人が周りの人たちと同じように生活したり、学んだり、仕事ができるようにちょっとした工夫をする「配慮」のことです。
上のイラストのように、例えば、大きな音や周りの声に敏感な特性のある人の場合、会社の了解を得て、パーテーションで仕切られた個室や、ノイズイヤフォンを使用することで、集中して仕事ができるように環境を配慮してもらうことなど。こうした例が現在、企業側でも取り入れています。
しかし、障がいの理解がない場合は、「あの人だけ、ズルい……」と思う人もいるかもしれません。決して特別扱いではなく、周りと同じように過ごせる工夫が「合理的配慮」です。
そこで、障害者差別解消法の改正(2024年4月施行)以降、どんな風に社会は変わったのか。今回のアンケートでは、そんな日常のリアルな声を集めました。
- 1 アンケートの回答年齢
- 2 現在、お仕事されていますか?
- 3 「合理的配慮」を知っていますか?
- 4 どんな場面で「合理的配慮」を感じますか?
- 5 どんな場面で「合理的配慮」が必要だと思いますか?
- 6 「合理的配慮」のどんな部分がわからないですか?
- 7 「合理的配慮」を受けた経験がありますか?
- 8 どんな「配慮」を受けられましたか?
- 9 🚌 交通機関での配慮
- 10 🏢 職場でのサポート
- 11 🪑公共施設などのサービス
- 12 💡 わかりやすく説明してくれた
- 13 「配慮」をお願いしづらかった場面があれば教えてください
- 14 🗣️「わがまま」と思われる不安
- 15 法改正で「合理的配慮」の変化を感じますか?
- 16 「変化を感じる」と答えた方の回答
- 17 「まだまだ改善が必要」と思うことを教えてください
- 18 「障がいのある女性」という立場で、配慮されにくいと感じることがあれば教えてください
- 19 生理・妊娠・育児の配慮は受けられましたか?
- 20 「こんな配慮があったら助かる」みんなのリアルな声
アンケートの回答年齢

まずは、今回アンケートに答えてくれた方々の年齢層をご覧ください。20代から60代までの方々が回答してくださいました。中でも、もっとも多いのが40代。働き盛りで、家庭のある方は子育て真っ只中の世代です。日々の生活や仕事の場面で「合理的配慮」が大きな意味を持つのでしょう。
一方、10代は回答者なし。学校生活を過ごす学生たちの中では、普段から家庭や学校側のサポートが自然と行われており、個人で配慮を求める機会が少ないのかもしれません。
現在、お仕事されていますか?

今回のアンケートには48人が回答しました。そのうち、働いていない方が13人と約27%を占めました。障害者雇用の社員として働く方は7人、パート勤務が5人、一般雇用は5人でした。
ほかにもフリーランスや自宅で塾を開講している方、就労B型支援施設の職員を目指すインターン中の方もいます。収入の安定が、難しいことがアンケートから伝わります。
「働いていない」と回答する人には、さまざまな事情があり、現実の厳しさや多様な働き方が垣間見えます。ですが、「働きたいけど働けない」と不安を感じている人には支援や理解を深めて、少しでも前向きな生活ができるように対策が必要だと考えます。
「合理的配慮」を知っていますか?

今回のテーマでもある「合理的配慮」は、法律で定められたもの。ですが、障害当事者へのアンケートでも、「知らなかった」「聞いたことがあるだけ」という声が合わせて4割以上ありました。
当事者でありながら、知らない人も数名いたこと。制度が作られても、まだまだ浸透していないことや内容が曖昧で伝わりにくい現状が伺えます。
どんな場面で「合理的配慮」を感じますか?

合理的配慮を感じる場面について、最も多かったのは『交通機関』で39%の回答がありました。多くの人にとって、日常の移動に交通の配慮は必要とします。だからこそ、この結果は納得でした。
次に多かったのは『求職や就労』で28%、続いて『商業施設(飲食店)』と『公共施設』がそれぞれ23%でした。これらの場所は、職場や家族、友人と過ごす中で配慮の充実が求められ、社会参加ができるかどうかの大事なポイントになっています。
どんな場面で「合理的配慮」が必要だと思いますか?

ここでも、多くの人が挙げたのは『交通機関の利用』と『商業施設や飲食店』でした。家から出た途端に起こるさまざまな出来事に対して、必要な配慮です。具体的には、83%近くが交通機関やお店での配慮を必要だと答えています。
もし「私が当事者だったら……」と想像すると、非常時の配慮は何より真剣にお願いしたい場面です。周囲に助けを求めにくい環境であっても、生きるためには誰かのサポートが不可欠だからです。ですが、27人の回答を見て、想像より少数派の印象でした。
非常時よりも、目の前の日々の暮らしに助けが欲しい状況なのかもしれません。まず、今目の前の暮らしを安定させてから取り組む課題になっている印象を受けました。
「合理的配慮」のどんな部分がわからないですか?

アンケートでは、約8割近くの人が『どこからか合理的配慮なのか線引きが分からない』と感じていることがわかりました。実際に支援者側も難しいと感じている部分です。
あれもこれもとお願いするわけにはいかないことは、互いに理解できても、障がい者の人が感じる生活の不便さは変わらずーーあえて「どこまでが配慮なのか」その声を上げることから始めていかなければ、前に進むことが難しいと感じます。
「合理的配慮」を受けた経験がありますか?

「ある」と答えてた人が半分以上。このグラフを見て、ホッとした部分もありました。配慮されている現実を実感している人が多いのはよかったと感じます。
一方では、「申し出たけれど受け入れられなかった」という声も数名ありました。勇気を出したにも関わらず、受け入れられなかったのかもと想像すると、残念な気持ちが残ります。提案したことや、自分の気持ちを伝えようとした行為が、いずれ何かの形になって動き出すことを願います。
どんな「配慮」を受けられましたか?
アンケートから見た「合理的配慮」を受けたことのある人からの回答をいくつか紹介します。
🚌 交通機関での配慮
・電車を利用する際に駅員にスロープを設置してもらった。
・飛行機で、過呼吸の発作が起きることがあり、航空会社に相談した。機体前方の席に変更してもらい出入り口が近くなったことで不安感が減った。スタッフさんのサポートが受けやすくなった。
・エレベーター乗車順番を譲ってもらい、エレベーター内の乗車スペースを確保してもらった。
・満員電車内で呼吸が苦しくなった時に、ヘルプマークを見た男性から席を譲ってもらえた。
・高速バスで乗り降りしやすい座席を指定してもらい、優先的に降ろしてもらえた。
🏢 職場でのサポート
・時短勤務に応じてもらえた。
・「重たい物は持てない」と伝えていたため、重たい物は同僚が持ってくれたりした。
・会社の入社時に車いす用トイレを設置してもらえた。
🪑公共施設などのサービス
・美容院でシャンプー台に夫に付き添ってもらっていたが、美容師さんの方から「私が対応してもよろしいですか」と移動の仕方を覚えてくれた。次からは夫がいなくても美容院に行けるようになった。
・よく利用するラブホテルでは、オンライン予約を入れる時に「車椅子です」と書いておくと、必ずバリアフリーの部屋をリザーブしてくれる。
・イベント会場の入り口が階段で下りられず、すぐにフラットな裏口案内してもらえた。
💡 わかりやすく説明してくれた
・聴覚障がいで、相手の方がマスクを外して口の動きを見せてくれた時や速やかに筆談ボードを出してくれた。
ほんのちょっとの工夫や配慮で生活がスムーズになり、うれしかった気持ちが文面から伝わってきました。やはり交通機関での配慮についての回答が多く、駅員さんのおかげで大きな安心感につながる回答が多くありました。
「配慮」をお願いしづらかった場面があれば教えてください
配慮されてよかった!と思う一方で、お願いしづらい場面も同時に起きています。
🗣️「わがまま」と思われる不安
・お店の人などが明らかに忙しそうにしている時
・正当な理由があっても相手から「自分勝手でわがままな人間だ」と思われるのではと感じた時。
・混雑してる電車内でスペースを確保してもらわなければならない時。
・店内が狭くて車椅子で入店できなかったため、ヘルパーに商品の写真を撮って見せてほしいと頼んだが、店側に撮影を断られた。
・向こうに聞く気がない時。
・「重たい物は持てない」と伝えていても、なかなか理解してもらえず、最初は頼みにくかった。
回答を読み進めるほど、これは障がいが無くても共感できる部分がいくつかありました。「赤の他人と接するとき」という回答もあり、制度の問題よりかは人との関係性や空気感が重要なポイントのようです。
中には「特別ない」という回答もありました。自分の障害や困りごとに合った配慮がすでに受けられているということでしょうか。
法改正で「合理的配慮」の変化を感じますか?

圧倒的に「感じない」が80%近く占めています。当事者が声を上げやすい環境作りが必要だと強いメッセージを感じます。
現在、働いている方にとっては制度の見直しをすることで、今後の職場環境に活かせるかもしれません。またもうすでに「これが配慮だったのか」と改めて気付ける機会もあると思います。
自分にとって今、何が一番必要な配慮なのか参考になるのではないでしょうか。
「変化を感じる」と答えた方の回答
法改正によって「合理的配慮」に変化を感じたと答えた方も、少数ながらいらっしゃいました。どんな場面でその変化を実感したのでしょうか?以下にいくつかの声を紹介します。
💬会話の中で自然と合理的配慮という言葉を聞くことが増えた気がする。
💬嫌がらずに(面倒くさい表情もなく)に対応してくれた時。
💬スマホがすでに合理的配慮。読み上げ機能があったり、スイッチでの操作ができる様になっているのはすごいと思う。
💬鉄道などの利用時に、以前より待たされる時間が短くなった。
💬周りから「不便がないか」と確認してもらえたり、人付き合いについても配慮してもらえている。
こうした声は、ゆるやかではあっても、少しずつ社会に理解が広がっています。
「まだまだ改善が必要」と思うことを教えてください
法改正がされても、すぐには変わらないことも。具体的にはどんな場面で思うのでしょうか。
😞私達のような障がいを持つ、少数派がいるということを考えたこともない人が多い。
😞理解していても見て見ぬフリをされているような方がいる時がつらい。
😞一般に周知されていない事で、店側の対応もどうしていいかわからない様子を見た時に、こちらも困ってしまう。
寄せられた声はどれもリアルでした。人との間に見えない壁があるような回答が続きました。
仕組みとしてあるだけでは解決されないのが浮き彫りになり、人の態度や言葉一つが強烈な印象に残ってしまい、声を上げることへの不安感や諦めにつながってしまうのではと感じました。
「障がいのある女性」という立場で、配慮されにくいと感じることがあれば教えてください
女性は子育てや仕事の両立、また体調面では生理痛など、気になることが多くあります。さらに性別と障害の両方が交差することで、見えにくくなっている困難や、配慮されにくさがあります。
🙍♀️子育てをしていると、他のお母さんのようにPTA、地区役員などを求められて困る。
🙍♀️「私、甘く見られている?」と感じる時、「女性だからなのか」、「障がいがあるからなのか」不透明なことが多い。
🙍♀️障がいがあっても、定型的な女性の幸せのカタチを押し付けられるのが苦しい。
🙍♀️ヘルプマークを付けていることで、今まで何度も妊婦さんに間違えられた。私は障がいがあるので、子どもは諦めたが、妊婦に間違われるたびに悲しい気持ちになる。
🙍♀️車いす用トイレには鏡がないことや、 サニタリーボックスがない時が不便。
女性特有の「配慮されない」=「見えにくい」「決めつけ」が大きい原因のようです。これは、一般女性でも同じことが日々繰り返されていると思います。
結婚や子育ては「女性が幸せになるライフステージ」と語られがち。確かに、それが喜びだと感じる人は多いと思います。このアンケートを読んで、私も思い返すことがありました。
でも一方で、さまざまな事情や背景から、それが簡単ではない、または選ばない人もいます。
特別な内容ではなく、障がいの有無なしに年齢を重ねた女性なら誰しもが一度は考えることです。
生理・妊娠・育児の配慮は受けられましたか?
生理・妊娠・育児は障がいのある女性に見落とされがちな配慮です。特に40代からの回答が多いことから、実際に経験してきたことがアンケートに反映されているのを感じました。

上記質問に「はい」「いいえ」と答えた方、どんな経験が具体的に教えてください
🧍♀️出産時に足が広げにくいので、産みやすいように 水の中で産むかなど 産婦人科の先生が考えてくれた。
🧍♀️生理痛が酷く婦人科に通院中。健常者の友人にピルを飲むと楽になったと聞いたが、車いす使用のため血栓ができる可能性があるから…と処方してもらえなかった。
🧍♀️結婚するときに福祉施設の職員に、「子どもはできないように気を付けないとね」と言われた。今から10年以上前のことだけど…。
🧍♀️薬の副作用で体重が増加し、安全に子どもを産めるBMIの数値を超えてしまった。現在も障がいの症状が強く、妊娠・出産は諦めた。
当事者の尊厳が踏みにじられるような回答もあり、胸が痛くなりました。
中でもある人からは「児童相談所から「障がい者だから」という理由で、自分の子どもを無理やり乳児院に入れられた」という声も。どんな状況にあっても、母子が安全に過ごせる環境を整えることが先決です。制度の不備や偏見の問題が社会に向けられています。
「こんな配慮があったら助かる」みんなのリアルな声
アンケートでは、「こんな配慮があったら助かる」と思うことについて、多くのリアルな声が寄せられました。
💬民間の賃貸物件を探している。共有部分にスロープを置いたり住宅改修したりすることへの許可が得られない物件がほとんどなので適用してもらいたい。
💬外出時、その場に行かないと、利用法が分からない場所(トイレや食堂など)の案内を事前にもらいたい。
💬一眼で発達障がいを抱えている事を周囲に知らせる物(ヘルプマークとは別に)。
💬障害者時短正社員にしてほしい。
💬職場までの送迎支援があれば、就労の機会が増えると思う。企業は検討してほしい。
💬ネットで表記されるアクセス案内には、バリアフリールートも記載することを法令で義務づけてほしい。
💬バリアフリートイレがあっても、必要のない人が使っていて入れないことだらけ。「誰が使ってもいいわけではない」案内を、周知する扉のデザインにしてほしい。
日々の不便は生活に直結する内容が多く回答されました。交通機関や就労に関するものが目立つのが印象的でした。
単なる不便ではなく、「生きるための選択肢を失う」ことにつながるではないでしょうか。全国のどこで暮らしても、誰もが当たり前の生活を送れるよう対策を考えるきっかけになればと思います。
アンケートを終えて
合理的配慮についてのアンケート結果を読んであらためて気付くことがありました。
それは「健常」とされる人と、「障がい」を持つ人も、心の葛藤や配慮されたいことに対して、共通点がたくさんあったということです。
配慮の境目は、想像よりもグレーゾーンです。それを私たちは、幼い頃から折り合いをつけて、日々を生きていることを改めて感じました。
現実には難しいこともあるけれど、
本当に助けてほしいことは、声に出さないと自分が深く傷つくことにもつながります。
でもその「声の上げ方」が、とても大事なのでは。アンケートの声から感じました。
もしこれから声を上げる際には、「私の声は、自分だけでなく周囲への思いやりにつながっているのか?」そんなふうに考えて、一呼吸おいて発する声ならば、きっと多くの人が耳を傾けてくれるのではないでしょうか。
特別なお願いではない「合理的配慮」が歩み寄るには、日頃の人間関係や、その人の人柄がとても大切なのだとハッとさせられました。私も気をつけなければ…..。
最後にアンケートにご協力いただいた方々、センシティブな意見にも触れましたが、丁寧に回答いただき、本当にありがとうございました。

執筆・イラスト 飯塚まりな