「まぜこぜの社会」を目指して——東ちづるさんが語る、エンタメを通じて伝える“多様性の居心地のよさ”

俳優・タレントとしての活動にとどまらず、一般社団法人 Get in touchの代表として、活動を続けている、東ちづるさん。東日本大震災をきっかけに、障がいのある人もない人も、国籍や性別、年齢を問わず、誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指してきました。エンタメを通じた活動や、その想いについて伺いました。

震災で目の当たりにした仲間の変化…私が立ち上げるしかない!

——7月27日に行われた、まぜこぜ一座の公演「月夜のからくりハウス/楽しい日本でSHOW!?」は、その後反響はいかがでしたか?

東 ちづるさん(以下 東さん) 大好評でした!その方の環境によって感想はさまざまですね。「気づきがありました」という人もいれば、「SDGsや多様性についてもっとグッとくるのかと思ったら、ただただ楽しかった」という方もいます。

――舞台では、ちょくちょく当事者が感じている皮肉を交えた毒が垣間見られますが、やはり抑えて作られているのですか?

東さん そうですね、やはり万人受けするように作っています(笑)。まだどうしてもそこに反応する人もいるので、慎重に作っている部分はあります。でもやりづらい面もありながらも、やりやすくもなっているところもあって、本当に分断の社会が表れていると感じますね。

――分断の社会、とても興味深いです。そもそも、Get in touchを立ち上げたのが東日本大震災がきっかけだったと伺いました。

東さん 私は1995年の阪神大震災の時にも、障がいのある方々が取り残されている、と感じていました。ただ、その時には団体を立ち上げるという発想はまだなかったんです。

それから2011年に東日本大震災が起こり、東京も大きく揺れて、1人暮らしのおばあちゃんとか、普段は全然知らない近所の人たちが心配だったし、被災地の避難所で活動仲間から生の声を聞いたりしていて、距離の近さと問題意識をより強く感じました。

また、メディアの発信が復興復旧と力強いことばかりで、取りこぼされている人たちのところに光が当たっていないということも、とても気になりましたね。

――そこから団体を立ち上げるという発想になるまで、どんな経緯があったのでしょうか?

東さん もともと、福祉団体、支援団体、企業、行政、超党派の政治家、省庁などの団体や組織の縦割り構造がとても気になっていて、同じところを目指しているのにうまく連携できていないことを、とてももったいないなと感じていました。分け合いながら、つながりながら活動した方が、社会は早くアップデートできますよね。

だから、震災の時も、横串を刺す団体があったらいいなと思ったんです。LGBTQも聞こえない人も、自閉症も、ダウン症も、あらゆる団体に横串を刺せばよくて、その団体に企業が助成金や協賛金を渡したら、それを上手に使えるのにと考えました。

でも、私自身はリーダーとか性に合わないと思っていて。誰かやらないかな、と周りに言っていたら、被災地の避難所でこんなことがありました。わからない者同士が活動するんだよね、と一緒に活動してきた友人が「もう頑張れない、生きていきたくない。ちづるさんにはわからないわよ」と変わってしまう瞬間を目の当たりにしたんです。やはりこのつらさは、私には言えても他では言えないのだろうなと思って、もう四の五の言わずに私が立ち上げるしかない、と決意しました。

――それで代表として「Get in touch」を立ち上げたのですね。

東さん うーん、とはいえ、代表になる気はなくて。当時はリーダーシップとか本当に苦手だと思い込んでいたので、誰かやってくれ!と思っていたのですが、自閉症協会の副理事長をしている親友から「メディアに出ている人間は自分を活用するべきじゃないの」と言われ、おっしゃる通りだなと(笑)。だから、5年で交代する、ということで代表になる覚悟をしました。あまり長く上に立つと、組織で権力を持ってしまうので。

でも、エンターテインメントってそう簡単にバトンを渡せないということがわかって、もう10年以上経っているのですが今も代表を続けています(笑)。ただ、今は副代表を2人つけて、担当も分担してそれぞれに責任者がいるので、少しずつバトンタッチできるよう準備を進めていますよ。

分断する世界…排除しようとしている人を責めずに分析することが重要

――東さんがボランティア活動を始めたきっかけは、17歳の白血病の少年を追ったドキュメンタリー番組を観たことだそうですね。

東さん はい、私が報道や情報番組からのデビューだったこともあり、いろいろと気になって観ていました。そこから骨髄バンクのボランティアを始めて、全国各地の病院や小児病棟、支援会、当事者の会と一緒に現場を回りながら活動していました。今みたいにSNSなんてなかったので、本当に地道に草の根的な活動でしたね。

――その活動が、今の「Get in touch」の活動に役立っているのですね。

東さん はい、それがすべてですね。本当に積み重ねで、この経験なくして「Get in touch」はできないです。あとは、芸能界で積み重ねてきた体験と知識と知恵ですね。

――30年以上と長くご活動されてきた東さんにとって、“まぜこぜ”という考え方について、どんな変化を感じていますか?

東さん 私は高度経済成長期に幼少時代を送ってきて、バブルのころに20~30代を迎えた世代です。そのころの私は、社会的なことを考えるってことがなかったんですよね。多様性やSDGs、LGBTQという言葉はなかったですし、自分の周りに困っている人がいると思っていませんでした。

でも、本当はめちゃくちゃいたんです。私もいつの間にか優性思想が刷り込まれていて、無知や無関心からくる偏見、差別もあったと思います。無知・無関心ほど怖いものはないですよね。その無知の知に気づいてから、活動を始め、私自身アップデートしました。

その時代から見れば、今は世界的に人権尊重については大きく発展していますし、日本もその意識は高いと思います。

けれど、反発する力も大きくなっていると感じ、分断がすごいですよね。グレーとか曖昧な感覚がない。

また、声を上げる仲間と集まっていると「社会は変革している」と勘違いするけれど、一歩違う輪に入ると、まだとてもとても生きづらい社会があって。無自覚な偏見がはびこっていたりします。

――わかります。世界的に、時代と逆行する人たちも結構な勢いで増えている気がしますよね。

東さん この閉塞感や疲弊している感じを誰かのせいにしたい、という思いから、誰かを排除することで自分たちを守ろうとしているのですよね。これはいつの時代もあって、わかりやすいのが戦前です。これはとても危険な状況だなと思っています。

でも、それを「正しくない」という声もすごく大きいので、あまり悲観的ではないですね。

――今後世間の考え方がどうなっていくか不安を感じている方も多くいるかなと思いますが、東さんとしてはどうなっていくとお考えですか?

東さん うーん、どういうふうになっていくかを考え続けることが大事だと思います。仕方ないと諦めたらそれで終わりなので、腐らないで、あきらめないで、前しか見ないということですね。

何かを排除しようとしている人を責めることで、また分断が生じます。責めずに、なぜそうなったのかを分析することがすごく重要なんですよね。結局、自分の首を絞めることになるんですよ、ということを伝えていく。政治や経済、哲学などについて、カフェや居酒屋、職場や学校で日常的にお話しできる環境があるといいですよね。

エンタメは楽しくて気づきがある!多様性の居心地のよさを感じてほしい

――東さんが「エンターテインメント」という形で発信をしているのはなぜなのでしょうか?

東さん 私自身が説教臭いものが嫌いなんですよ(笑)。啓発的な講演とか意識高い人が行くようなものってあまり足が向かなくて。

やはり、人は楽しいとかワクワクするとか、お得感のあるものでないと集まらないし、耳を傾けないし、心は動かないです。

昔からエンタメの力ってあって、ロックだって演歌だって、もともとは反社会の思想から生まれてきていますし。本来のエンタメってそういうもので、ただ楽しいだけじゃないんですよね。楽しくて気づきがある。

――まぜこぜ一座の舞台の台本も、楽しくて気づきがある、ということを一つのテーマにしているのですか?

東さん もちろんです。どうしても、最初は説教臭いものを入れたくなるんですが、それをどう削って、どこまで毒を入れてもOKか探っています(笑)。

月に2回会議があって、台本の内容もみんなの意見で決めています。メンバーも、肩書き、職業、年齢、ジェンダー、障がいなどなど、なんでも多様なので、いろいろなアイデアが生まれますよ。

――パフォーマーさんたちは、オーディションなどで決めているのですか?

東さん いえいえ、ほとんどがスカウトです。私自身がステージを観てから出待ちして、声をかけた人もいますよ(笑)。私たち一座のパフォーマーは、世界でも活躍している超一流です。

そもそも、私シルクドソレイユが大好きなんです。シルクドソレイユを見て「やりたい!」と思ったんですよ。

海外公演とかも行きたいですね。きっと海外でもウケると思います!

――でも、まぜこぜ一座の公演は、見世物小屋とか、最初は世間からさまざまな意見があったと伺いました。

東さん そうですね。公演をするにあたり、感情やパッション、エモーションも大事なのですが、まずロジックがとても重要なんです。どんなイベントも、歴史を紐解くところからみんなで勉強しています。

なぜ見世物小屋がなくなったか、昔は障がいのある人たちのエンタメはどうだったのかなど、ちゃんと勉強して、説明できるようにしています。

――まぜこぜ一座の目標は、活動が必要なくなることを願っての「解散」とのことですが、実際今後はエンタメと社会性の交わり方はどうなっていくと思いますか?

東さん 変わらないと発展しないとは思うのですが、やはりまぜこぜ一座の活動は、福祉業界の方だけでなく、まだ意識していない人たちに届けたいなと思います。

――映画「まぜこぜ一座 殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」が動画配信サービスで観られるようになりましたよね。これって、かなりすごいことだと思います。

東さん そう、すごいでしょ!すごく頑張ったんです(笑)!配信に至るまで、あきらめないの精神で。映画の上映も、配給会社さんと何度もやり取りして、日本全国の上映館でアフタートークするという、どぶ板営業で実現しました。

この地道な取り組みで、障がいがあって映画好きな人がいっぱいいるんだという気づきを与えたと思います。

――あと、まぜこぜ一座の公演で印象的だったのは、障がいのある方の配慮はもちろんですが、「自由に観ていいですよ」という声かけでした。終始リラックスしていられて、とても居心地がよかったです。

東さん そうそう、踊ってもいいし声出してもいいよ、と前もって言っています。そうすると、じっとしているのが苦手なお子さんがいるご家族も安心するんですよ。親が安心するとお子さんもリラックスして、実は今まで一度もトラブルがないんです。

――わかります。周りが寛容な世界って、すごくいいなと感じました。これが社会に広がっていくといいですよね。

東さん そうなんです。全員に居心地がいい、これが多様性ですよ、“まぜこぜ”ですよっていうことを、イベントを通して体感してもらいたいですね。


終始、竹を割ったように軽快にお話しされる東さん。その根っこには、常に大きな優しさを感じました。Co-Co Life☆女子部も、目指す場所は同じ。このシンプルな優しさを、私たちも常に持っていたいと改めて感じた取材でした。

今年もGet in touchでは、10月6日の「脳性まひの日」に「Warm Green Day」としてイベントを開催。今年はYouTube番組「東ちづるとカマたくのあなた様はNANIMONO!?」とコラボをします。公開生配信をし、脳性まひの当事者と一緒に全員参加型のトーク&グループセッションもおこないます。

テーマカラーの「緑」を身につけて、みんなの生きづらさを一緒に楽しく考えてみませんか。

<プロフィール>
東ちづる(あずま・ちづる)さん

俳優・一般社団法人Get in touch代表。
広島県出身。会社員生活を経て芸能界へ。ドラマから司会、講演、出版など幅広く活躍。2012年にアートや音楽、映像、舞台等を通じて、誰も排除しない“まぜこぜの社会”を目指す「Get in touch」を設立し、代表を務める。2017年に多様なパフォーマーが魅せる「まぜこぜ一座」を旗揚げ。東京2020 オリパラの公式映像「MAZEKOZEアイランドツアー」の企画・構成・キャスティング・演出・衣装デザイン・総指揮を担当。自身が企画・構成・プロデュース・出演する映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」はAmazonプライム他で配信中。エンタメを通じて多様な世界の実現を目指している。
また、自ら描いた妖怪61体を社会風刺豊かに解説した著書「妖怪魔混大百科」(ゴマブックス)を基に、ドイツのぬいぐるみブランドNICIとコラボした妖怪マスコットを発売中。

Get in touch公式サイト
https://www.getintouch.or.jp

映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」公式サイト
https://mazekoze-matsuri.com

【妖怪マスコット】ドイツのぬいぐるみブランド「NICI」
https://www.entresquare.com/c/nici?srsltid=AfmBOopmw-ehdNgL_qQXzwwJif-XPQsYj5ccSdDfrgdWL63r4A0pbssH