昨今、ニュースで話題になる性被害問題。障がいのある女性が性被害にあうリスクは、決して少なくありません。「私がいけなかったの?」と涙を流さないためにも、今回の記事では、防犯の観点から性被害の実態や構造、自分を大切にする方法などを専門家と一緒に考えましょう。
お話ししてくださる専門家

特定非営利活動法人しあわせなみだ 理事 中野宏美さん
社会福祉士。精神保健福祉士。2009年「しあわせなみだ」を立ち上げ、2011年にNPO法人化。性暴力ゼロを実現するために社会に働きかける活動を続ける。
読者モデル

蒼井心音さん
CRPS(複合性局所痛症候群)を14歳で発症。学校教諭で化学を担当するほか、ココダイバーシティ・エンターメントに所属しタレント活動開始。
なぜ、障がいのある女性が狙われやすいのか
中野さんが活動を始めたのは16年前。性被害や暴力に遭われた多くの女性たちと出会います。そこで気付いたのは、彼女たちのコミュニケーションや行動に特徴があり、何らかの障がいがある背景を抱えている人が少なくないことでした。
どうして、障がいがあることで被害を受けやすくなるのか。中野さんはその実態と長年向き合ってきました。

性被害は「知らない人」から受けてしまうだけでなく、知人や介助をしてくれる身近な人との間で起こることがあります。特に女性たちは身体接触による介助等を通じて、他者との性的な境界が曖昧になり「ノー」と言えずに被害に遭ってしまうのです。
「私たちは、子どもの頃に“知らない人には付いて行かない”と教えられたと思います。でも、障がいがある場合は知らない人(支援者)を信頼して付いて行かなければ、身動きが取れない人もいます。“人を信頼する”ということ自体は素晴らしいですが、一方で性被害につけ込まれてしまう場合もあるのです」と中野さんは語りました。
また、障がいがあることで、さまざまな経験や機会が奪われてしまう人は、自己肯定感の低さを感じやすい傾向にあります。自分に対する自信のなさで、性的接触を迫られると断れずに被害に遭うケースも見受けられます。
中野さんの話を聞いて、読者モデルの蒼井さんは「私も昔は音大に進学することに憧れていました。でも、病気を発症してからは楽器を弾くことが難しく進路を変更しました。もし病気でなかったら違う道があったかもしれません」と振り返りました。
「障がいがある人たちは、中学~大学まで進学できる環境が限られます。学力、経済面の厳しさや、社会で生きるさまざまな地位関係性において、不利な立場におかれやすいことも性被害の要因です」と中野さんは力強く語りました。
性加害者は、そんな弱い立場にいる女性たちに近づき、行為を正当化していくのです。
性被害に巻き込まれる構造を知ろう

性被害はある日突然起きるものだけでなく、「グルーミング」と呼ばれる、信頼関係を装うアピール方法があります。加害者は「あなたは特別な存在」「二人だけの秘密だよ」と言いながら、心の距離を縮めて支配していく。その関係性はとても健康的ではありません。
「2023年の刑法改正で、被害者が16歳未満の場合、罪が問えるようになりました。ですが、知的障がいなどがハンディがある場合、たとえ成人していてもグルーミングのリスクにさらされてしまいます」と中野さんは語ります。
また、現代人には欠かせないSNSは、顔の見えない大多数の人と接点を持つことができます。中野さんは「SNS上での性被害は明らかに増えている」と述べていました。
「SNSが発展して、加害者と被害者の出会い方が変化していきました。加害者は「この人はだましやすい」「この子なら訴えないだろう」というターゲットを探して、喜ぶ言葉を並べます。優しい大人を装い、コミュニケーションを取りながら実際の行為に及びます」と説明しました。
「自分がSNSに投稿する前に、信頼できる大人に見てもらうことも大事です。本当に人に見せて大丈夫なものなのか、プロのクリエイターたちも仕事仲間と確認をしながら発信しています。確認する習慣を持つことで自分を守れますね」とアドバイスしました。
もし被害に遭ったらどこに相談すればいいのか
中野さんに相談できる窓口を教えていただきました。

これらの窓口では、「障害者虐待防止法」や「児童虐待防止法」などに基づいて、性的な虐待に関する相談にも対応しています。
なお、年齢や被害が起きた場所によって、相談できる窓口が異なる場合があります。
・性暴力被害者ワンストップセンター
全都道府県にあり、性被害・暴力について相談に応じる施設。
・区市町村の障害者虐待防止センター
・労働基準監督署
・児童相談所
・地域包括支援センター
現在、障がい福祉サービスを利用している人は利用している機関に相談できます。
相談支援事業所や障がい福祉サービス提供事業所は、あなたの障がいの特性を理解しているのが強みです。「この人なら聞いてもらえそう」と思える人にまず話してみてください。
つらい思いをして一人で我慢する必要はなく、声をあげることは当然の権利です。
もしもの時に相談できる場所として、頭の片隅に入れておきましょう。
読者モデル蒼井さんから中野さんへ質問

ここからは読者モデルの蒼井さんが中野さんに聞きたいことを尋ねました。
蒼井さんは学校の教師になって8年目。担当する子どもたちは、思春期を迎え『性』に関して興味を持ち、時には欲望のために突き走ろうとする危うさも…。
子どもたちに自分の心や身体を大切にすることを、どのように伝えたらいいのかと中野さんに投げかけました。
「私自身は女性で障がいもあり、あらゆる面で弱い立場にいると感じる時があります。職場で一時、生徒の行き過ぎた行動に悩みました。私はまだ軽い方だったと思いますが、当時はとてもしんどかったです」と言葉を選びながら話しました。

中野さんは子どもたちとの健康的な関係を考えるために、まず大事なことは「大人社会の改善」が必要だと強調します。
「部下が上司を見るように、子どもは大人をよく見ています。蒼井さんの職場は、一人一人が尊重される環境ではなかったのかもしれません。一緒に働く教諭たちが正しい知識を持ち、互いを認め合うこと。弱い立場にいる人には声をかけて話を聞くなど、そのような関係性ができていることで、子どもたちの行動は変わってくると思います」。
子どもが問題ではなく、大人である自分たちが意識を変えること!これは新たな発見でした。
また、中野さんは性被害の経験を他と比較して「自分は軽い」と思うことについて、どの被害も大変な経験だと語りました。
「もし『私はまだ軽い方だった』と思うことで気持ちが落ち着くのであれば、それは一つの考え方として有効かもしれません。しかし、本当の気持ちに蓋をしているだけであれば『あの時、私はつらかった』と認めることが自分を癒すことにつながります」と中野さんは語りかけました。
私たちは誰もが守られる存在であり、尊重されてこそ安心して生活を送ることができるのです。
蒼井さんも「私もあの時、誰かに自分の思いを話していたら、もう少し心が楽になれたかもしれないと思いました。今日はお話できてよかったです」と笑顔を向けました。

中野さんから読者へメッセージ
性被害に遭った方に伝えたいことは「その場で取った行動が、自身にとって最善の選択だった」ということです。
なぜなら、これまで自分が歩んできた人生の中で得た知識や経験から、最も良いと考えて取られた行動だからです。
あなた自身の辛い経験に対して、過去の自分を悔いることなく、あらゆる選択の中で最善の方法を選択した結果、今日まで生き抜くことができた自分に自信を持ってもらえたらと願います。
編集後記
中野さんは終始笑顔で話しながらも、一つ一つの言葉に力がありました。
「最善の選択をしたのだから自信を持って」
その言葉が、取材を終えた今も心に残っています。
性被害に遭わない自分でいるためには、素直な気持ちを話せる人が一人でも多くいることだと感じました。一人ではなく、複数人いることで客観的な視点から自分を見てもらえるからです。
お話の中で、親しいと思っていた人から性的な接触を迫られていたケースもあると知り、「確かにそういうこともあるかもしれない」と納得しました。
自分が感じた違和感や疑問をそのままにせず、時間をかけてでも声を上げることは、誰かのためになり、自分の人生を取り戻していくことにもつながると思いました。

特定非営利活動法人しあわせなみだ https://shiawasenamida.org/
撮影:渡邊誠 企画・取材:飯塚まりな