「誰もが笑顔で過ごせる未来をつくるため、今アクティブに活動している人を紹介するインタビューシリーズ「みらい人(みらいびと)」。第1回は「障がいのある・なしに関わらず、人生を謳歌するために」というモットーを掲げて、大阪でアパレル&コミュニティーブランド「ouca」を運営している田村優季さんにお話しを伺ってきました。
祖母の一言で気がついた「生きづらさ」
「ouca」を立ち上げたのは、盲ろう者で網膜色素変性症の祖母のひと言がきっかけでした。仕事のストレスから躁うつ病になってしまい、実家に戻っていた時期のことです。同居している祖母の食事の用意をしたり、話し相手になっていたある日、祖母からこんな言葉を聞いてしまいます。
“ 目も見えないし、耳も聞こえない、私は役立たずだから、スクラップにしてほしい…… ”
この言葉を聞いて、祖母が自分の障がいについて悩んでいることに初めて気がつきました。それと同時に「祖母がいたから私や母まで命がつながっているのに、どうしてそんなことを言うのだろう」と怒りがこみあげてきました。しかし祖母の言葉を母に伝えたところ「おばあちゃんはいるだけでいいんだよ、学びになるよね」と言われ、はっとしました。
そして、その思いを言葉ではない方法で伝えるにはどうすればいいのかと考えたのです。
ブランドの立ち上げ
「第2の肌」とも言われる下着に着目!
ファッションの専門学校を卒業してからずっと洋服を作ってきました。学生時代にはイタリアのアトリエに留学したり、社会人になってからもフランスへインターンとして働きに行ったりした経験もあります。なので、ファッションを通して祖母に「生きていてよかった」と思ってもらえるようにブランドを立ち上げました。
下着を作ろうと思ったきっかけは、下着が「第2の肌」とも呼ばれているから。
祖母はそれまでの人生で人から裏切られることが多かったので、人のぬくもりを感じることができる下着を作ろうと考えました。
下着の開発をしていくうちに、自分自身も敏感肌で下着を着けにくかったということや、ストレスによって躁うつ病になった経験を振り返ってみて、自分にも生きづらさがあったと気がついたのです。そして、身近にいた母の生きづらさにも気づくことができました。
“ 生きづらさって、誰にでもあるものなんだ ”
そう思うようになって「誰かの不便をみんなの価値に変える」インクルーシブデザインという形で下着作りをはじめたのです。
“ 祖母だけではなくいろんな人の不便を価値に変えていこう ”
「祖母のために」というのが出発点でしたが、早い段階でそれはなくなって「誰もが」や「みんな」を意識して考えるようになりました。
当事者の声を反映させた商品づくり
SNSで出会った筋ジストロフィーや、若年性パーキンソン病の女性たちにショーツの悩みをヒアリングして、悩みを解決する商品を開発することにしました。
「手の力がないので、ゴムがキツイと上げにくい」「ずっと車いすに乗っているので、ウエストのゴムが食い込んでしまう」という意見を聞き、肌に優しい生地を採用しました。
また「障がいがあり、車いすに乗っていても彼氏の前では可愛くいたい」との声を聞き、内側がさらさらしているレースを選びました。
出来上がったショーツを彼女たちに送ったところ「可愛くて履きやすい」「みんなも欲しくなるね」と感想をもらいました。
oucaの商品やイベントを通じて、障がい者と健常者の隔たりをなくしたいと思っています。HPでも「障がいのある人向けの下着である」とは書いていません。デザインの可愛さや、肌触りの良さから興味をもってもらうことが多いです。興味を持ってもらったあとに「筋ジストロフィーや若年性パーキンソン病という難病の方と開発した下着なんです」と説明しています。
どこから履いても“正解”な靴下
minamo(ミナモ)
靴下の制作費を集めるため、クラウドファンディングにも挑戦しました。目標金額25万円のところ、50万円が集まりました。
「どこから履いても正解になる靴下 minamo(ミナモ)」。これは、視覚障がいのある友人からの「靴下を履くのが大変」「片方を無くしてしまう」と声を受けて制作したもの。靴下の特徴としては、筒状になっていて裏表前後がないこと。かかとの縫い目もないので「どこからでも履ける」のです。4色展開ですが、どの組み合わせでも違和感がありません。なので、もし片方をなくしてしまっても他のカラーと合わせて履くことができます。
祖母に履いてもらったところ「締め付けがなくて気持ちがいい。変に伸びたりしなさそうだね」と言ってもらえました。
“ 優季が頑張って活動しているのを見届けたいから生きないと “
祖母も明るさを取り戻し、こう言ってくれるまでになりました。
他にも「8歳の娘は音や触覚に敏感なところがあり、普段ならハイソックスは絶対に履きませんが、この靴下は気に入って履いています」と感想が届きました。
視覚障がいの人だけではなく、感覚過敏の方にも履きやすい靴下となっています。
人生を謳歌するために何が必要か
oucaでは、アパレル商品の開発だけでなく、様々なイベントを開催しています。もともとブランド名のouca(オウカ)は「人生を謳歌する」というところからきています。
イベントの企画は、友人たちとの会話の中でテーマを考えることが多いです。
脳性まひの友人から「恋愛や性に興味があるけれど、経験がないので自分に自信がない」という話を聞き、女性のデリケートゾーンに関する勉強会を行いました。参加者からは「勉強になりました。自分をもっと大切にしようと思いました」という感想をいただきました。
他にもトランスジェンダーの知人と「大人のおもちゃ屋さんツアー」を行ったり、人生で大切なお金に関するセミナーなどを開催したりしました。
イベントには、障がいの有無を問わず様々な人が参加しています。
“ 参加者同士が助け合わないとイベントが成立しないので
お互いがお互いのことを自然に学んでいます。 ”
例えば、デリケートゾーンの勉強会では、視覚障がいのある参加者のために他の参加者が体の部位を使って説明をしてくれました。そういったことが自然に行われています。
大人のおもちゃ屋さんツアーでは、車いす3台、白杖を持つ人、盲導犬と一緒に参加してくれた人などもいました。車いすのたたみ方や盲導犬のトイレの行き方などをみんなで学びました。
今後の「ouca」の展望
子ども用の靴下を開発したいです。
minamo靴下は現在21㎝から29cmまでサイズ展開をしているのですが、縫い目がイヤで脱いでしまう子どもがいるので、そんな子どものための靴下を作りたいです。
下着に関しても、カラーバリエーションを増やすことを考えています。
また、下着や靴下といった全商品を試着できるトランクショーも企画中です。2022年5月に初めてのトランクショーを行ったのですがとても好評でした。次のトランクショーでは新商品のお披露目も検討しています。
イベントの予定としては、大人のおもちゃ屋さんツアーの第2弾!を計画しています。珍しいイベントということもあって、大阪だけでなく東京でも行ってほしいという声も上がっています。
他にも、下肢装具を付けていても履ける靴を開発している「マナオラナ」の布施田祥子さんとのコラボイベントも計画中。
どんどん街に出てほしい!
自分が躁うつ病になって、苦しんだ時期があったからこそ気づいたことがたくさんありました。それが今の活動につながっています。
私の友人たちは、障がいがあるからと諦めることが少ないです。障がいのある皆さんが街に出ていくことで、周りの人たちが気づくこともあると思います。なので、どんどん街へ出て行ってほしいです!
田村 優季さん(34)
アパレル&コミュニティーブランド「ouca」代表。服飾系専門学校を卒業後、縫製工場で6年間勤務。イタリアやフランスで経験を積む。国家資格である婦人子供服製造技能士を取得。現在は、「雑食縫製士」と名乗り、フリーランスでオーダーメイドスーツやドレスを制作。そのかたわら、障がいや難病のある人たちと下着や靴下などの商品開発、障がいのある・なしに関わらず参加できるイベントなどを行っている。
Ouca公式サイト:https://www.ouca.life/
Instagram:https://www.instagram.com/ouca_life/
■ この記事を書いた人
ライター:榎本佑紀
障がい名:脳性まひ
■ 撮影
カメラマン:タケダトオル