聞こえないデザイナーと吃音症の共同経営者が描く ”人と夢を育てる”ファッションショー

障がいのある人がどのような服の悩みを抱えているのか、以前Co-Co Life☆女子部の読者を対象にアンケート調査を行ったことがあります。そこには障がいがあることによる「着やすさ重視」と「おしゃれしたい気持ち」のハザマに生じる多くの悩みが寄せられました。そこで今回は聴覚障がいの「聞こえない社長・兼モデル」のIKUTOデザイナーゆりさんがファッションショーに出展するということで、会場を訪れてみました。Co-Co Life☆女子部のメルマガから読者も数名ご招待をしていただいたので楽しんでもらえたかと思います。このようなご招待やイベントの告知もありますのでぜひサポーター登録をしてご活用ください。


コレクション初の車いすモデルの採用

「海外のコレクションを目指しているモデルさんがいるのでミラノをイメージしてショーを構成しました」と微笑むデザイナーの佐藤悠理さん(以下ゆりさん)(聴覚障がい)。隣にいるのは上條祐也さん、吃音症により時折言葉につまりながらも手話通訳でゆりさんを支えています。彼はIKUTOの共同経営者で主に手話通訳と運営等を担っています。

2025年夏、ふたりが取り組んだのは東京スタイルコレクションでの作品発表。ゆりさんは車いすモデルを起用しました。車いすモデルの出演はこのコレクションでは初めての試みでしたが、主催の「誰もが輝ける舞台を提供する」というコンセプトにもまさに合致していました。インスタグラムでモデルの募集をして、アーティストの吉川さやかさん(先天性骨形成不全症)を採用しました。

クラシックギター奏者として音楽活動をしているさやかさんですが、ファッションショーのランウェイは初めて。そこで、モデルとしても活動しているゆりさんがウォーキング(ランウェイ)を指導することになりました。車いすでも入れるレンタルスタジオを都内で探して、ゆりさんもさやかさんの隣で車いすを使って実演しながら洋服を美しく見せる方法やモデルの心得などを教えました。

個人レッスンを受けたさやかさんは「体幹の使い方、足の置き方、ハンドルを操作する手の向きなど、モデルとしてキレイに見せる動き方を教えてもらいました。初めて気づくことが多くて大変勉強になりました」と話してくれました。

IKUTOのファッションショーには パフォーマンスがかかせない

通常のファッションショーではモデルはランウェイを歩いて先端でターンして戻るだけでポーズはなかったり、あっても最小限だったりすることが多いといいます。しかしIKUTOの洋服の特徴は障がい者や手話通訳者に寄り添った細部にこだわりのあるデザインなので、ただモデルが着て歩いただけではその洋服の機能や魅力が伝わりにくいという面があります。そこでゆりさんは特徴のある部分に注目してもらうためにモデルたちにそれぞれパフォーマンスの指示をしました。

手話通訳者のためにデザインされた「すいすいブラウス」。手話が見えやすい無地のダークカラーで、脇が広く腕が動かしやすい。

手話で「IKUTO」の指文字をするモデル

手話をするときに肩のラインが上がらないように工夫されたスーツ。肩の部分に手を添えて注目してもらいました。

車いすや椅子に座った時に背中や下着が出てしまわないよう、後ろ姿が美しく保てるように股上の後ろ部分が深くお腹の圧迫も少ないパンツ。モデルが椅子に座って実演。

未来を育てる想いがあふれている 他のデザイナーの作品にも発表の機会を与えたい

IKUTOのショーにはゆりさんのデザインしたもの以外の作品も多く登場します。これはゆりさんが会社を立ち上げたときに掲げた理念である「人を育てたい」という思いからきています。ブランド名の「IKUTO」は漢字の「育人」をローマ字にしたもの。

「関わる人がみんな成長できる、自分の能力で活躍できるような機会を与えたい、人を育てる会社にしたい、そういう思いがあってブランドを立ち上げました。コンセプトは“寄り添うファッションを通して人と夢を育てる”です」

ゆりさんにとって会社の設立は自分だけの成功ではなく、関わる人みんなが共に成長し、人を育成する場にしたいという思いから始まっています。会社はゆりさんにとって作品を完成させるだけでなく、人と人を結びつけて助け合い、磨きあう場所でもあります。

会場のお客さまにコンセプトの説明をするゆりさんと手話通訳をする上條さん。

車いすイラストレーターとコラボした 華やかなIKUTOスカーフ

ランウェイを歩く8人のモデルたちの髪にはそれぞれスカーフがスタイリングされていました。これはゆりさんが車いすのイラストレーターに発注して作製したもの。IKUTOのロゴがデザインされています。

「スカーフは病気による髪の悩みがある人には大いに活用できるアイテムです、今回のショーでは髪型のアレンジにぜひ使いたいと考えていました」と話すゆりさん。

ショーや写真撮影で使用したフラワーコサージュは聴覚障がいのあるアーティストの作品。また、新作レギンスもゆりさんの知人のデザイナーの作品でした。このようにIKUTOの作品発表の場でゆりさんは障がいのあるなしにかかわらず他のアーティストやデザイナーにも発表の機会を積極的に与えています。

聴覚障がいのあるフラワーコサージュアーティストの作品。ブローチとしてだけでなく、髪飾り、洋服を留める、手に飾るなど「使い方はいろいろと楽しめます」とゆりさん。

IKUTOのロゴ入りTシャツの裾をフラワーコサージュで留めて。ランウェイではスカーフを髪からとって全体の柄をお客さまに見せるパフォーマンスを指示しました。

“誰でも着られる”を目指す 3人で同じワンピースを着て歩くフィナーレ

ショーの最後には、“聴覚障がいのゆりさん”と“車いすのさやかさん”と“健常者のモデル”の三人が同じワンピースを着て登場しました。この意味をたずねると「誰もがあたりまえに着られる」を表現したとのこと。今後は「その人その人に合わせてセミオーダーができて、どんな人にも柔軟に対応することを考えています、詳細はまだ試行錯誤中です(笑)」と明るく答えるゆりさん。ゆりさんの作る洋服を着る人は、その背景にある“関わる人みんなが夢を持って共に成長する世界観”をも知ることができます。

「ココロシャルワンピース」どんな体型の人でも美しく着られるように工夫されていて、それぞれフィット感や前後左右のバランス、裏地にも違いがあります。一人一人に寄り添うのがIKUTOの洋服の魅力。(中央)さやかさん(右)ゆりさん。

IKUTOのロゴは「ゆりさん・白杖・補聴器・車いす」を表したアルファベット。

佐藤悠理(さとう・ゆり)さん(聴覚障がい)1990年2月25日生まれ、岐阜県在住。合同会社IKUTO代表。聞こえない社長兼モデル、デザイナーとして活動。「聞こえないファッションデザイナーはまだ少ないのでその注目をきっかけに障がい者への理解が進んだり、手話が広まることを願っています」

上條祐也(かみじょう・ゆうや)さん(吃音症)1991年6月13日生まれ、岐阜県在住。合同会社IKUTO共同経営者。手話の普及活動を行っている。「吃音症で悩む人は手話をやることによって吃音の悩みが軽減することがあります」

吉川さやか(よしかわ・さやか)さん(先天性骨形成不全症)1988年5月2日生まれ、東京都在住。アーティスト(クラシックギター奏者)。普段から洋服の悩みは多く、体に合う服を探すのは大変。丈やウエストが合わなかったり、車いすで着用するのに向いているかどうかも判断基準になる。今回のワンピースは「華やかだけど動くときにはたためるのでタイヤに巻き込む心配もなく可愛く着られました」初ファッションショーの感想は「ドキドキしてあっという間でランウェイはあんまり記憶がないです(笑)でも誰でもファッションが楽しめるようにと思いやりのある素敵なブランドさんのショーでとても楽しく参加できました!」

撮影:畑光美・相徳敏久・小西智也

スカーフ:児玉結以

フラワーコサージュ:井戸坂昴汰

取材・文:加藤珠由

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