どういうわけか、頭では理解しているのに、言葉が出てこない。
重度の自閉症で、生まれつきコミュニケーションの困難を抱えてきた東田直樹さん。
幼い頃から文字に興味があったことや抜群の暗記力により、母親の熱心なサポートで、文字盤ポインティングやパソコンを使って会話ができるようになります。
13歳の時に出版した「自閉症の僕が飛びはねる理由」(エスコアール・角川文庫・角川つばさ文庫)はたちまち世界でベストセラーに。これまで多数の絵本やエッセイを出版し、自閉症者の内面を書き綴った著書は、自閉症の子どもを育てる家庭や、支援者たちのバイブルになりました。
今回は東田さんの事務所にお邪魔し、「人に気持ちを伝えること」をテーマにお話を聞きました。
東田直樹さん プロフィール
1992年8月生まれ。重度の自閉症。パソコンおよび文字盤ポインティングにより、コミュニケーションが可能。
初の著書「自閉症の僕が飛びはねる理由」は、後に国際的作家デイヴィッド・ミッチェル氏に翻訳され、30か国語以上で翻訳されている。執筆活動以外に、全国で講演活動を行う。

はじめに
東田さんの存在を知ったのは、昨年秋、NHKドキュメンタリー「時をかけるテレビ」の再放送(2014年放送)でした。
私はライターをする傍ら、3年前から障がい者支援に携わっています。そこで東田さんと同じ、自閉症の青年と出会いました。彼も会話ができませんが、温厚な人柄で、会うたびにとても癒されます。
しかし、表情が乏しく気持ちが分かりづらいため、「内心はどう思っているんだろう」と気になったのです。これまで彼の気持ちを聞かずに、自分たちの都合で判断していました。
東田さんの著書を読み「自閉症の人には話ができない人もいるが、意思がある」と改めて認識しました。彼の取る行動や独特なイントネーションに意味があることがわかり、当たり前なことに気付けなかった自分を反省しました。
今では著書をヒントに簡単な質問を筆談に書き、心の中を確認できるように。小さなコミュニケーションが取れた最初の瞬間は「うわぁ」と声が出るほど、感動的でした。
私だけでなく、周りの人たちにとっても大きな発見だったと思います。
「この感謝の気持ちを直接、東田さんにお伝えしたい」。
今回、取材という形でお会いすることができました。

行動には意味がある
取材は1月下旬、千葉県にある東田さんの仕事場を訪ねると、玄関口から「こんにちは!」と元気な声が何度も聞こえてきました。
挨拶をして部屋に入ると、東田さんは私たちの方を見ずに、室内を歩き回りました。部屋の小窓を除き、外を走る車のタイヤが回転するのを見るのが日課。同じ行動が、取材中も何度も行われました。
著書には、「障がいのある人の行動には意味がある」と書かれる一方で、「自分のこだわりや繰り返す行動が止められず、当事者は想像以上に苦しんでいる」と伝えています。
簡単には解明できない、不思議な自閉症の世界。
それでも、東田さんは自分なりの表現や言葉で、人との関係は築けることを教えてくださいました。

【 自閉症の人にとって話すとはなにか 】
A:はじめまして、今日はお会いできて嬉しい気持ちでいっぱいです。著書を拝読し、すっかり東田さんのファンになりました。どうぞよろしくお願いいたします!
東田さん:こちらこそ、ありがとうございます。僕が、「嬉しい!」と思うことばかり言ってくださって光栄です。
B:早速ですが、いつ頃から文字盤を使うようになりましたか。言葉を伝えられることで、一番変わったと感じることはどんなことでしょうか。
東田さん:文字盤のローマ字打ちは小学2年生から始めました。それまで、僕は自分の言いたいことが伝われれば、それで会話が成り立つものだと思っていました。
けれども、自分の気持ちを一方的に伝えるだけことではなく、相手の気持ちを受け止めることが大切だと気づきました。会話とは、互いの思いをやりとりすることが何より重要なこと思います。

C:言葉がうまく話せないとき、頭の中でどんなことが起きているのでしょうか。
東田さん:僕が苦手と感じるのは言葉の表出です。思考や理解力は他の人と変わらないと思っていますが、記憶も混乱しています。
他の人は、日々の出来事を線のように記憶しているとすれば、僕の場合は点のようにしか記憶できないというイメージです。人は本来、体験を積みかさねながら記憶されていくと思いますが、僕には難しいことなのです。
D:体験の積み重ねが難しいとなると、例えば「この間、会ったときこうだったよね」と過去の話を持ち出した場合、困らせてしまうのでしょうか。
東田さん:困るという感じはないですが、僕がうまく答えられなくても、がっかりしないでください。優しく教えてくださると嬉しいです。僕たちは話せなくて困っています。話したくないわけではありません。
E:筆談や文字盤をする際に、私たちが自閉症の人たちに対して安心して答えてもらえるにはどうしたらいいでしょうか
東田さん:「私はあなたの気持ちを知りたいと思っている」という気持ちを伝えてください。また、言葉が出てくるまで、時間がかかることもあります。そんな時は、どうか待っていてください。

F:自閉症以外に、いくつもの障がいがあります。障がいを「個性」と言われることをどう思われますか。
東田さん:個性という言葉を使うかどうか、僕はどちらでも構わないと思っています。個性をどのように捉えるかで、言葉の意味が違ってきます。個性と言っていいのか、悪いのかは誰にも決められません。個性という言葉を使って伝えたいと思う人が、使えばいいのではないでしょうか。
G:今の自分から、気持ちを伝えられなかった幼い頃の自分に、なんて声をかけてあげますか。
東田さん:伝えることを諦めないでください。今はわかってもらえないと感じていても、いつかあなたの思いが届くことを信じて、自分の言葉で話してください。
F:前編、最後の質問です。Co-CoLife女子部の読者には、コミュニケーションがうまく取れず、友だち作りや仕事が続かずに悩んでいる方がいます。話すことに自信がない人に伝えたいことはありますか。
東田さん:僕には友だちがいません。自分のせいで周りに迷惑がかからないかを心配して、友だちがいない寂しさを感じる余裕もなかったような気がします。だからといって、生活の中で孤独感を味わったことはなく、自分の人生を寂しいと感じたことはありませんでした。
美味しいものを食べたとき、きれいなものを目にしたとき、人に優しくされたとき、「僕は幸せだなぁ」と思えるのです。
僕が作家になれたのは、文章を書くことが好きだったからです。子どもの頃に、さまざまなコンクールに応募していました。応募には締め切りがあり、テーマや原稿用紙の枚数も決まっていて、目標を持って書くことができたと思います。

自分が好きなことを続けてみてください。仕事として続けられたら理想ですが、もし続かなければ、それは向いていなかったのかもしれません。でも、また別のことにチャレンジしてみてください。
好きなことや向いていそうなことを探して、挑戦し続ければ、いつか居場所は見つかると信じています。
編集後記
取材が始まり、しばらくすると東田さんと目が合い、私たちを受け入れようとしてくださったと感じました。
自閉症という、生まれつき言葉が出にくい特性でも「伝えることを諦めない」強い信念。その思いを持ち続けたからこそ、家族を始め、多くの人が東田さんの作家活動を支えています。
「うまく話す」と「思いを伝える」は別もの。世界中で自閉症の子どもを持つ家族や、コミュニケーションを苦手とする人たちを救ったことは、何事にも変え難いことです。
撮影:鈴木智哉 取材・執筆:飯塚まりな